CA644 – 出納はロボットの手で / 千代由利

カレントアウェアネス
No.125 1990.01.20


CA644

出納はロボットの手で

手の届きそうもない高い書架,暗い照明,ガチャガチャ音をたてる機器,排列に何の脈絡もない50万冊以上の本……。カリフォルニア州立大学ノースリッジ図書館(CSUN)新館書庫は,利用者に使い易いとは到底思えない。それもその筈で,ここはロボットが本の出納をする,世界で初めての完全に機械化された書庫なのである。

サンフェルナンド・バレーに建設中の,総額1,850万ドルにおよぶ同図書館拡充計画は,この最新機械化システム“リバイアサンII”に200万ドルをあて,1991年秋に完成の予定である。完成すれば1フィートあたりの書庫収蔵能力は,従来の12倍が見込まれ,利用頻度の最も低い本が排架される予定である。

ロボットとは2本のアームを持つ変形のフォークリフトである。書庫には100フィート(30m)の通路が走り,その両側は本の箱が組みこまれた高さ40フィート(12m)の書架である。通路にはレールが設置されており,その上をロボットが動き廻る。本の一冊一冊に付けられたバーコードが,本の位置,貸出し状況を“リバイアサン”に伝えるため,主題による分類を必要としない。利用者は端末操作により本を請求,6台のロボットが,目的の本の入っている箱を探し出し,貸出台に持ってくる。この間およそ5分。図書館員が箱の中から請求の本を選び出し利用者に渡す。

ロボットは暗闇を厭わず働き,暖房の必要もなく,ごみをちらかしたりもしない。このため年間数十万ドルもの運営経費が浮くし,さらに通常の図書館建設費より数百万ドルも安いといわれる。年々増大する蔵書,狭隘な書庫,厳しい予算に悩む大学図書館や研究図書館にとって“リバイアサン”の成否は大きな関心の的である。毎年25万冊の本が増え,3年後に書庫の満杯が予想されるLCもこの実験に注目している。

しかし反対も根強い。機械の故障やシステムのダウンを理由に反対の人々は,1970年初め,同様の機械化システムを導入し,無惨にも失敗に帰したインディアナ州の郡図書館の例をあげる。このシステムは巨大な磁石で金属製の本の箱を持ち上げ,ベルトコンベアに乗せるもので,故障が頻発した。結局システムをとりはずし,従来の書庫方式に改めるのに1〜25万ドルも費すことになった。

当時に比べれば,ロボット技術の進歩はめざましく,現に何百もの工場や倉庫で採用され成功していると推進派は主張する。

学生や教員が新書庫に反対する理由は,機械化システムヘの懸念というよりは,むしろ書庫に入れなくなることにある。研究の必須条件といわれるブラウジングが出来なくなることへの不満である。ブラウジングヘの信奉は根強く,情報科学の専門家や図書館機械化コンサルタントですら,ブラウジングの効用を捨て切れないでいる。

しかし,書庫建設費の高騰や15〜20年で蔵書が倍増する大図書館は,本に埋ってしまう前に何らかの策を講ずる必要がある。こうした機械化は学問と経済的側面の双方からの要求を充たそうとする妥協の産物であると関係者は語っている。

千代由利

Ref:Los Angeles Times 1989.11.21