CA631 – 第55回IFLAパリ大会学術出版物の差別価格に関する調査 / 金中利和

カレントアウェアネス
No.123 1989.11.20

 

CA631

第55回IFLAパリ大会
−学術出版物の差別価格に関する調査

図書館における外国出版物,とくに学術出版物の収集は,近年の一般的な価格上昇もさることながら,国際的に有力な出版社がとっている二重価格(差別価格)政策によって大きなダメージを受けている。

IFLAの収集・交換分科会では,1989年4月にアンケートによりこの問題の実態調査を行ない,その結果を去る8月末のIFLAパリ大会で中間的に報告した。(Ref.1)

この調査の趣旨と経緯については,同分科会の常任委員である中野捷三氏の記事(Ref.2)に詳しい。

英文によるアンケートは,本年4月に英語および独語圏の78ヵ国の国立図書館・大学図書館を中心に509館に送付された。5月中旬までの約1ヵ月余の間に22ヵ国105館から回答が寄せられ,今回の報告はこれを集計したものである。

また,このアンケートは仏語と西語に翻訳されて,本年夏に関係国の図書館に送付され,その回答を含めて明1990年のIFLAストックホルム大会で最終的に報告される予定である。

なお,IFLAは,この最終報告を根拠として,出版社および出版関連団体と話し合うことを考えている。

アンケート結果の概略は次のとおりである。

1.外国出版物収集のための財政的データ

購入予算全体に外国出版物が占める割合は,70%以上の図書館が全体の約40%,50〜70%の図書館が20%,30〜50%が30%強,30%以下が10%弱となっている。

また,年間の国内出版物の値上がりについて80%の図書館が10%以下であると答えているのにたいし,外国出版物の値上がりについては,50%強の図書館が10%以上,21%の図書館が15%以上と答えている。

とくに雑誌の値上がりが顕著であり,なかでも科学技術と医学関係誌のそれが大である。このため,84%の図書館が予算の都合で図書の購入を大幅に減らさねばならず,70%の図書館は逐次刊行物の購読を中止しなければならないと答えている。

2.団体か個人かによる価格の差別

とくに学術図書の場合,米英ではハードカバーとソフトカバーの価格差が製本実費をはるかに越えており,ハードカバーの購入者がソフトカバーの購入者を援助していることになる。つねにハードカバーを購入すると答えた図書館は57%,残りの43%は利用条件などによっていずれかに決めるとしている。

雑誌の場合は図書以上に深刻な差別を受けている。とくに主要な理工系の雑誌において顕著で,極端なものは個人購読価格の16.75倍のものもあった。差別価格設定については,58%の図書館がその正当性を認めず,42%は国によって著作権法規や複写料金が異なるのでこの二重価格を受け入れると答えている。しかし,受け入れるとする図書館でも,約70%は価格の上乗せは30%以下が妥当であるとしている。

価格負担を軽減するために,56%の図書館ができれば学術出版団体の会員になって雑誌講読の恩典をえる方法をとっており,また,3分の1の図書館が極端に上乗せ率の高い雑誌については,例外措置ではあるが個人として購読することに成功している。

3.外国か国内かによる価格の差別

国際的に有力な出版社が,図書や,とくに雑誌について,出版国の国内価格より高い外国向価格を設定するケースが増えている。

図書の場合,73%の図書館が迅速にしかも簡単に入手したいとの理由から,高い外国向価格で購入している。

雑誌については,国際的な代理店を通じて購読している場合が多い。大規模な図書館では,差別価格によって年間20〜30万ドルもの損失を被っていると答えている。

雑誌は代理店に発注しても出版社から直接に図書館に送付されるので,出版社は差別価格を強いるのに必要な情報をえやすい立場にある。これに対抗する手段として,20%近くの図書館が,いくつかの国の雑誌については出版国内の業者またはその国内に支店をもつ業者に発注し,その業者を経由して図書館に送付する方法をとっている。

また,極端な差別価格が設定された高額の雑誌に限って,出版国内の交換相手図書館と協力関係を結んで,国内価格で購読する方法を採っている図書館が37%ある。

個人か団体かによる差別価格については若干の図書館は許容できる範囲ならば認めるとしているが,外国市場における学術出版物の高価設定にはほぼ一致して拒否している。99%の図書館が,出版社は出版国の通貨による単一価格を設定すべきであり,その価格は世界中どこでも有効であるべきという主張を支持している。

4.各図書館の反応

90%の図書館が利益を最大にすることのみを目的とする価格政策の及ぼす影響を明らかにするため,学術出版社と直接接触することが必要であると感じている。過度の価格上昇は,図書館の購買力を減じ,文献の供給,重要な研究成果の国際的流通,ひいては国際的学術研究の役割まで危うくすることを出版社は認識する必要があるとしている。理工系出版業界では,合併や国際的な統合の傾向にあるので,世界的に影響力を有する出版社グループに効果的に対抗するために,98%にのぼる図書館が強固な連帯を求めている。図書館とその関連団体は,学術図書館の不安定な状況を明確にするために,国家的国際的レベルで出版社や出版関係団体と交渉する必要性がある。学術出版物の著者であり編者であると同時に利用者でもある研究者の支持を得ることができれば,図書館の地位は非常に強化されることになり,研究者にこの状況を知らせる必要性を支持している。

金中利和

Ref. (1) Griebel, R. & U.Montag. The international problem of differential pricing for research literature: preliminary report on a project. IFLA Paris Conference paper, 1989
Ref. (2) 中野捷三 図書館はどれだけ損をしているか−IFLA収集・交換分科会の「差別価格」実態調査について 図書館雑誌 83 (4) 190-191, 1989