CA1592 – アジア・オセアニア地域と図書館−IFLAアジア・オセアニアセクション委員会活動より− / 北村由美

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.288 2006年6月20日

 

CA1592

 

アジア・オセアニア地域と図書館
−IFLAアジア・オセアニアセクション委員会活動より−

 

 

はじめに

 2006年2月20日から2月24日まで,ベトナムのハノイにて行われた国際図書館連盟(IFLA)アジア・オセアニアセクションの委員会と関連活動に参加した。アジア・オセアニアセクションは,現在48あるIFLAのセクションの一つで,地域活動部会(第8部会)の下に位置付けられている(1)(2)。地域活動部会の他のセクションであるアフリカセクション,ラテン・アメリカおよびカリブ海セクションとともに,図書館の館種や職務内容ではなく「地域」をテーマとしている点,地域オフィスが置かれ活動の拠点を担っている点が他のセクションと異なっている。

 今回のハノイ行きは,私にとっては初めてのIFLA体験であった。この活動に参加するまで,私にとってIFLAとは,イコール世界中で開催される年次大会であり,日々の活動内容を想像できない顔のない組織だった。その漠然したイメージの組織が,私が収書をはじめとする図書館業務,および研究・調査の対象としている東南アジアでは具体的な顔を持っているらしいというのが,アジア・オセアニアセクションに委員として参加する契機となった。本稿では,IFLAアジア・オセアニアセクション委員会の活動内容を通して,アジア・オセアニア地域における図書館の課題について考察したい。

 

アジア・オセアニアセクション委員会

 今回の参加者は,西はシリア,東はフィジー,南はニュージーランドなど11カ国13名の委員に加え,IFLA本部とIFLAのプログラムの一つである図書館振興プログラム(Advancement of LibrarianshipProgramme:ALP)からのオブザーバ3名,の計16名であった。メンバー構成から,アジア・オセアニアと区分される地域が全世界の3分の1に相当すること,そして文化的・社会的多様性に満ちていることを再確認させられた。13名のうち,新地域オフィスとなるシンガポール国立図書館のオフィスマネージャーを含めた5名が,今期からの新任委員である。

 日程は,

  2月20日:ベトナム国立大学情報リテラシー国際会議

  2月21日・22日:LFA(Logical Framework Approach)ワークショップ

  2月23日・24日:アジア・オセアニアセクション委員会

であった。

 LFAワークショップは,ALPの協賛を得て,スウェーデン人のコンサルタント,カリ・オルテンガン(Kari Ortengan)氏によって委員会メンバー向けに行われた。LFAは,国連をはじめとする援助機関が用いているプロジェクトの立案,検討,評価のためのスキームである。

 ワークショップは,その翌日から行われる委員会にて,実際に私たちが評価することになるALPプロジェクトのプロポーザルを素材に,LFAの各段階をグループで行うという実践的な教授法で進められた。私たち委員が委員会に先立ってこのワークショップを受けた意義は,プロジェクトや奨学金の選択をするにあたり公正な判断をすることの難しさを知るにつれ,次第に明らかになった。

 委員会では,オスロで行われた委員会議事の確認,会計報告,地域オフィス,ALPからの報告などが行われた後,ALPプロジェクトおよびニュージーランド大学ウェリントン校への奨学生の選考,そして今後の活動内容の検討が行われた。ALPプロジェクトとは,途上国において図書館の基盤に関わる活動を支援する制度で,特に以下4点に力点をおいている(3)

  • 司書の教育と研修の継続
  • 図書館協会の支援
  • 図書館および情報サービスの推進
  • 図書館サービスへの新技術導入

 今回は,カンボジアとラオスにおける情報リテラシー推進に関連するプロジェクトが選択された。

 これらの選考過程においては,委員会のメンバーが同地域の出身者であり,地域・国に対する知識が深いという利点があった。一方で,地域・国への関わり方の深度や立場によってはバイアスが生じ,議論が錯綜するという弊害があった。検討方法の改善は,今後のセクションの課題である。

 

アジア・オセアニア地域における図書館をめぐる課題と日本

 言うまでもないことだが,アジア・オセアニア地域における図書館の課題は,同地域における社会的・経済的・政治的課題と直結している。うち最大の問題は経済的課題であろう。アジア・オセアニア地域の多くの国々が,援助の需給の構造において受け手にあたる。図書館界においてもその構図は変わらず,多くの国々が図書館および専門職形成の過程にあり,国際機関,各国政府,NGOなどの援助をうけている。このことは,今回出席した委員の出身国11カ国のうち7カ国が,ODAの対象国であることからも明らかである(4)。また特に東南アジアと太平洋の国々に関しては,欧米や日本の植民地であったという歴史的背景と,現今の必ずしも安定しているとはいえない政治状況がある。

 このような課題をかかえる地域に対して,日本の図書館界は,どのように関わり方を考えていけばよいのだろうか。一案としては,アジア・オセアニア地域に関する情報ニーズがますます高まっていく中で,日本がアジアの情報基盤の中核としてこの地域の情報の収集・発信を担っていく形が考えられる。この構想を実現させるには,アジア・オセアニアの各国内において図書館と専門職の制度化が不可欠であり,同地域への長期的な関与が求められる。とかく欧米での先進例に目が行きがちな私たちにとっては,IFLAアジア・オセアニアセクションの活動へ参加することが,多様な背景を持つ参加者と問題意識を共有するきっかけになるかもしれない。

 今夏8月のソウル大会に関連するアジア・オセアニアセクションの活動は表のとおりである。ご興味のある方は,立ち寄って頂ければと思う。

 

表  2006年8月 アジア・オセアニアセクションIFLAソウル大会関連活動

開催日 場所 テーマ 共催機関
16日〜
17日
国立国会図書館東京本館 サテライト・ミーティング:アジアにおける資料保存
(Preservation and conservationin Asia)
IFLA資料の保存プログラム(PAC)
18日 延世大学 サテライト・ミーティング:21世紀の東アジアに関する学術情報
(Scholarly Information on EastAsia in the 21st Century)
東アジア図書館協議会
(Council on East Asian Libraries:CEAL)
20日〜
24日
COEX (コンベンション・展示センター) 知識社会のための情報リテラシー
(Information Literacy for the Knowledge Society)
IFLA地域活動部会(第8部会)
20日〜
24日
COEX (コンベンション・展示センター) オープンアクセス導入の推進
(Promoting the Implementationof Open Access)
IFLAアジア・オセアニアセクション

 

京都大学東南アジア研究所:北村由美(きたむら ゆみ)

 

(1) IFLA. (online), available from < http://www.ifla.org >, (accessed 2006-04-17).

(2) 金容媛. 国際図書館連盟(IFLA)の組織と主な活動. (online), available from < http://www.nii.ac.jp/publications/kaken/HTML%93%FA%96%7B%8F%EE%95%F12000/2000Kim-J.html >, (accessed2006-04-17).

(3) IFLA, op.cit., (1).

(4) OECD. DAC List of ODA Recipients: Effective from 2006 for reporting on 2005, 2006 and2007. (online), available from < http://www.oecd.org/dataoecd/43/51/35832713.pdf >, (accessed 2006-04-17).

 


北村由美. アジア・オセアニア地域と図書館−IFLAアジア・オセアニアセクション委員会活動より−. カレントアウェアネス. 2006, (288), p.4-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1592