CA1560 – 動向レビュー:米国連邦政府におけるウェブサイト構築・運営の指針 / 古賀崇

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カレントアウェアネス
No.284 2005.06.20

 

CA1560

動向レビュー

 

米国連邦政府におけるウェブサイト構築・運営の指針

 

はじめに

 電子政府の構築・運営が各国で進んでいるが,その「入り口」というべき政府ウェブサイトをどのように構築・運営するかは大きな課題だと言えよう。とりわけ,そのための指針を各国の事情にあわせて策定することは,一貫性のある電子政府の運営に重要な役割を果たすものと考えられる。本稿は,電子政府の先進国である米国連邦政府におけるウェブサイト構築・運営の指針策定の取り組みを概観する(1)(2)

 

1. 指針策定の担い手

 米国連邦政府においてウェブサイト構築・運営の指針策定に中心的な役割を果たしているのは,2003年6月に設置された「政府情報に関する行政機関間委員会(Interagency Committee on Government Information:ICGI)」(3)という組織である。ICGIの設置・運営は,2002年12月に制定された「電子政府法」(CA1474E025参照)の第207条において「政府情報のアクセスの容易性,有用性および保存」を実現するための組織として規定されている(4)。ICGIの「運営本部」は,以下の各機関の代表者から構成されている。

  • 行政管理予算局(Office of Management and Budget: OMB):連邦政府の行政活動を総合的に統括・調整する。「政府情報資源管理」政策を統括するなど,米国連邦政府における政府情報政策の中心的な担い手でもある(5)
  • 主席情報官委員会(Chief Information Officers Council):連邦政府の各機関に置かれる主席情報官(CIO)らの集まり。電子政府法第101条(合衆国法典第44編第3603条)に設置規定がある。
  • 国立公文書館・記録管理局(National Archives and Records Administration: NARA):公文書館としての業務に加え,連邦政府の記録管理活動を統括する。
  • 共通役務庁(General Services Administration: GSA):情報技術に関するものも含め,連邦政府の物品・施設全体の調達・管理を担当する。

 

2. 政府ウェブサイト構築・運営のための包括的指針

 2.1 2004年6月のICGI指針

 ICGIによる最も包括的な政府ウェブサイト構築・運営指針として,2004年6月に策定された「連邦政府の公共的ウェブサイトに対し推奨する政策・指針」(以下「ICGI指針」とする)がある(6)。この指針は以下の7つの大きな原則を示しており,またその下での様々な課題を達成すべき日を明示している。

  1. 市民にとって,公式の連邦政府ウェブサイトがどのようなものであるかを確認でき,それが時宜に沿い正確な情報を提供していると信頼できなければならない。政府用のドメイン(.gov,.milなど)の使用,「米国政府のサイト」であることの明記,リンク方針の明記,日付の記入や更新頻度への留意,などが求められる。
  2. ウェブサイトは利用者の視点に立って執筆・構成されなければならない。政府機関の職員向けに限ったコンテンツは原則として提供しないこととする。また,各機関で共通した用語法を用いること,「連絡先」「自機関の説明(About Us)」「サイトマップ」のページ構成なども共通性をもたせること,各機関が利用者の満足度やサイトの使いやすさを測定することも求められる。
  3. ウェブサイトはそのアクセス・利用が容易なことを保障するかたちでデザイン・執筆がなされなければならない。障害をもつ人,英語を使いこなせない人を含め,サイトがどのような利用者にも対処できるようにすることが必要とされる。具体的課題として,コンテンツ執筆には平易な言葉遣いをすること(7),適切なファイル・フォーマットを用いること,ナビゲーション機能に一貫性をもたせること,サイト内の検索機能をつけること,標準的なメタデータを用いること,URL変更の際にはその旨を明記すること,緊急の際にもウェブサイト運営の継続を保障すること,などが提示されている。
  4. 「垣根のない政府活動」の推進のために,各機関をまたがる情報は単純化・統一しなければならない。各サイトでの重複をなくすこと,各機関をまたがる政府ポータルサイトの構築・運営のために該当機関の間で協力すること,各サイトから包括的ポータルサイト“FirstGov”をはじめ適切な政府ポータルサイトにリンクを張ること,などがここでの課題である。
  5. 政府機関はそれぞれのウェブサイトにコンテンツを掲載する優先順位と日程を策定しなければならない。この点は電子政府法第207条(f)(2)に定められており,どのような情報をインターネットや他の手段によって入手可能にするかを決める手続きの策定,その情報の優先順位および日程の策定などが求められている。
  6. 各機関は連邦法,規則,政策を遵守しなければならない。遵守すべき法規定としては,プライバシー規定,セキュリティ規定,障害者のためのアクセス規定(リハビリテーション法第508条),情報自由法,情報品質保証ガイドライン(8),英語を使いこなせない人に対するアクセス規定,書類作成軽減法,政府書類削減法,記録管理規定,知的財産保護規定,政府業績・結果法,政府内反差別・内部告発者保護保障法(No Fear Act),ロビーイング規制規定,政府情報カテゴリー化に関する法(電子政府法第207条(d))などが挙げられている。
  7. ウェブサイトのための政策や必要事項を策定するのは継続的な過程であり,そのための制度を必要とする。具体的には,OMBによる「ウェブコンテンツ審議会」の結成,OMBによる政府ポータルサイトの点検,各機関のOMB長官への報告(電子政府法第202条(g)),などの取り組みが勧告されている。

    2.2 2004年12月のOMB指針

     2004年12月にはOMBが「連邦政府機関の公共的ウェブサイトのための政策」(以下「OMB指針」とする)を発表した(9)。これについては,「電子政府法」207条(f)(1)に,「この編(第II編:連邦政府による電子政府サービスの管理および推進)の施行日から2年以内に,OMB長官は行政機関のウェブサイトに関するガイダンスを発表しなければならない」と規定されており,この「OMB指針」はこの規定に沿って制定されたものと言える。もっとも,「OMB指針」は「ICGI指針」と比べると簡潔な内容にとどまっている。これは,後述する「連邦ウェブコンテンツ管理者のための便利帳」において,「ICGI指針」が「OMB指針」を適用するためのガイドラインと位置づけられていることにも関連すると思われる。

     この「OMB指針」で掲げられている原則は以下の通りである。

    1. 「情報提供対象物(information dissemination product)」(10)の目録を作成し,また情報提供の優先順位と日程を確立,維持すること。
    2. 情報の品質を保障すること。
    3. 政府各機関において包括的なリンク方針を確立,実行すること。
    4. 一般市民および州,地方政府とコミュニケーションをとること。
    5. サイト内の検索機能をつけること。
    6. 認可されたドメイン名を用いること(原則として.gov,.mil,.fed.usのいずれかのみを用いること)。
    7. セキュリティ保障の手段を用いること。
    8. プライバシーを保護すること。
    9. アクセシビリティを保障すること。
    10. ウェブサイト運営に関する記録を管理すること。

     この「OMB指針」については,連邦政府各機関が2005年12月末日までに上記10原則を達成すべきであり,達成状況をOMBが監視する,という形で強制力を持たせている。また,これらの原則は「ICGI指針」の内容をほぼ踏襲したものと考えられるが,「サイト内の検索機能をつけること」を必須事項と位置づけたのが特徴的だと言われている(11)

    2.3 その他の関連資料

     以上のように述べてきた指針に加え,ICGIは政府ウェブサイト構築・運営に伴う内部記録の管理(E242参照)に関する指針として,2004年12月に「インターネット上の政府情報およびその他の電子記録の効果的な管理に関する提案」を発表した(12)。この「提案」も,電子政府法第207条(e)(1)に「この法律の制定日から2年以内に」発表すべきものと規定されている。この「提案」では,以下の3点の原則を定めている。

    • OMB,NARAほか上級官庁による記録管理の支援。
    • 連邦政府組織の「全体最適化」を目指す仕組みである“Federal Enterprise Architecture”(13)の中に,記録管理の要素を組み込むこと。
    • 記録管理に基づくアカウンタビリティ(市民への説明責任)の強化。

     これに基づき,2005年1月にはNARAが政府ウェブサイト構築・運営に伴う記録管理の指針を発表している(14)

     また,2004年12月には米国地質調査局(U.S. Geological Survey)のスタッフにより『ウェブサイト管理のベスト・プラクティスを通じて市民中心の政府に』という報告書が出された(15)。ここでは連邦政府各機関のウェブサイト運営の向上を促すために,優れた実例(ベスト・プラクティス)を取り上げている。具体的には,住宅・都市開発省(Department of Housing and Urban Development)やエネルギー省の省エネルギー・再生エネルギー局(Office of Energy Efficiency and Renewable Energy)の取り組みなどが,「ベスト・プラクティス」として詳しく紹介されている。

     

    3. 政府ウェブサイト構築・運営指針の包括的情報源

     最後に,以上挙げたような指針を集約したウェブ上の包括的な情報源として,「連邦ウェブコンテンツ管理者のための便利帳」を紹介しておきたい(16)。ここでは,前述の「ICGI指針」「OMB指針」を再掲載しているほか,政府ウェブサイト構築・運営に関する情報の主題索引,会合のお知らせなどを掲載している。今後の新たな指針についても,この「便利帳」に集約されるものと思われる。

     以上の通り紹介した米国連邦政府の様々な指針は,日本で政府ウェブサイトを構築・運営する上でも大いに参考となるはずである。また,これらの指針のうち明確な強制力があるのは「OMB指針」のみであるが,「電子政府法」の運用という観点からも,これらの指針について継続して吟味していく必要があるだろう。

    国立情報学研究所:古賀 崇(こが たかし)

     

    (1) 以下の別稿において米国連邦政府のウェブサイトの現状をまとめたので,あわせて参照されたい。
    古賀崇. アメリカ連邦政府におけるウェブ上での情報提供のしくみ:日本への示唆も含めて. 行政&ADP. 40(11), 2004, 13-19.
    (2) ウェブサイト構築・運営にとどまらず,連邦政府における電子政府構築・運営への取り組みの全体像を知るには,“FirstGov”内の以下のリンク集が有益だろう。
    Electronic Government and Information Technology (IT). FirstGov. U.S. General Services Administration. (online), available from < http://www.firstgov.gov/Federal_Employees/Electronic_Government.shtml >, (accessed 2005-05-06).
    (3) Interagency Committee on Government Information. (online), available from < http://www.cio.gov/documents/ICGI.html >, (accessed 2005-05-06).
    (4) 「電子政府法」の解説および条文の日本語訳として以下を参照。
    平野美惠子. 米国の電子政府法. 外国の立法. (217), 2003, 1-74.
    (5) 「政府情報資源管理」政策については以下を参照。
    岡本哲和. アメリカ連邦政府における情報資源管理政策:その様態と変容. 関西大学出版部, 2003, 318p.
    (6) Recommended Policies and Guidelines for Federal Public Websites. U.S. Interagency Committee on Government Information. 2004. (online), available from < http://www.cio.gov/documents/ICGI/ICGI-June9report.pdf >, (accessed 2005-05-06).
    (7) 「平易な言葉遣い」のための情報源として以下のものがある。
    Plainlanguage.gov. U.S. Federal Aviation Administration. (online), available from < http://www.plainlanguage.gov/ >, (accessed 2005-05-06).
    (8) 政府情報の「品質保証」をめぐる法規定については以下を参照。
    宇賀克也. 情報公開法:アメリカの制度と運用. 東京, 日本評論社, 2004, 20-22.
    (9) Policies for Federal Agency Public Websites. U.S. Office of Management and Budget. 2004, M-05-04. (online), available from < http://www.whitehouse.gov/omb/memoranda/fy2005/m05-04.pdf >, (accessed 2005-05-06).
    (10) 「情報提供対象物(information dissemination product)」という用語法は,OMB通達A-130「連邦情報資源管理(Federal Information Resources Management)」に基づくものである。以下の拙稿を参照。
    古賀崇. アメリカにおける政府情報と著作権をめぐる議論. 情報ネットワーク・ローレビュー. (2), 2003, 1-19.

    (11) Miller, Jason. OMB creates single policy document for Web requirements. Government Computer News. 2004-12-21. (online), available from < http://www.gcn.com/vol1_no1/daily-updates/31407-1.html >, (accessed 2005-05-06)
    (12) Recommendations for the Effective Management of Government Information on the Internet and Other Electronic Records. U.S. Interagency Committee on Government Information. 2004. (online), available from < http://www.cio.gov/documents/ICGI/ICGI-207e-report.pdf >, (accessed 2005-05-06).
    (13) “Enterprise Architecture”(EA)とは経営戦略手法のひとつであり,情報システムを中心に組織運営の全体像を提示しつつ,組織活動の全体最適を目指す仕組みである。米国電子政府法にもEAへの言及があるが,日本では「e-Japan戦略」を実現するための仕組みとしてEAが取り上げられ,注目を集めつつある。
    (14) NARA Guidance on Managing Web Records. U.S. National Archives and Records Administration. 2005. (online), available from < http://www.archives.gov/records_management/policy_and_guidance/managing_web_records_index.html >, (accessed 2005-05-06).
    (15) Fuller, H. Kit. Becoming a Citizen-Centered Government through Best Practices in Web Management. U.S. Geological Survey. 2004, Open-File Report 2004-1359. (online), available from < http://erg.usgs.gov/isb/pubs/ofrs/2004-1359/ofr2004-1359.pdf > , (accessed 2005-05-06).
    (16) The Federal Web Content Managers Toolkit. Federal Web Content Management Working Group, U.S. Interagency Committee on Government Information. (online), available from < http://www.firstgov.gov/webcontent/index.shtml >, (accessed 2005-05-06).

     


    古賀崇. 米国連邦政府におけるウェブサイト構築・運営の指針. カレントアウェアネス. 2005, (284), p.9-11.
    http://current.ndl.go.jp/ca1560