CA1439 – 資料保存に関する研修の評価-SOLINETの試み- / 村上直子

カレントアウェアネス
No.268 2001.12.20


CA1439

資料保存に関する研修の評価―SOLINETの試み―

米国には現在,20あまりの地域保存センターが設置されている。地域保存センターは,個々に資料保存のラボを持てない図書館や博物館等が共同で利用できる施設である(CA1215参照)。活動内容は,ラボの共用,修復依頼への対応,インターンの受け入れ(コンサベーターの育成)などである。また,もう一つの業務の柱として,「フィールドサービス」と呼ばれる保存のための調査,保存計画等の相談,パンフレット作成等の啓蒙,ワークショップの開催等の活動がある。ワークショップは,現職員を対象とした簡単な図書の補修から,マイクロフィルムの保存や災害対策に至るまで,様々な内容が用意されている。

さて,アトランタにあるSOLINET(Southeastern Library Network)は,米国南西部10州やカリブ地域などからの800あまりの図書館が登録している地域保存センターである。SOLINETはこの度,研修の効果について評価プロジェクトを行った。というのも,研修参加には多くの時間と費用がかかるにもかかわらず,効果がどれだけ上がるのかは把握が難しく,参加する側は研修参加の主張の根拠を求めていた。また,研修の効果測定モデルが保存分野ではまだ確立されておらず,開催する側も効果を明確にさせることを求めていた。

プロジェクトは1996年春より開始された。開始にあたり掲げた目標は,(1)参加者が所属機関の改善に努力しているときに支援する,(2)フィールドサービスのスタッフに対し,ワークショップの効果を測るシステムを提供し,必要であれば修正のヒントを提供する,(3)保存に取り組んでいる人々のネットワークを強化する,という三つであった。調査にあたっては,「研修前」「研修の3週間後」「3ヵ月後」の3回,参加者にアンケートに回答してもらうという方式をとった。以下で紹介する1999年6月にまとめられた調査結果は,1996〜99年に行われた21のワークショップの参加者335名に対するものである。

「研修前」のアンケートでは,所属機関,蔵書量,スタッフのレベル,保存の予算などのほか,3ヵ月後の達成可能な目標についても尋ねた。集計の結果,参加者の所属機関は大学(university)図書館21%,公共図書館20%,以下,大学(college)図書館,専門図書館と続く。行われている保存活動については,補修80%,図書館製本66%,利用者・職員への教育54%,災害対策51%となっている。研修3ヵ月後の目標としては,図書館製本の情報の更新,災害計画の更新,スタッフへの防災訓練等が挙げられていた。
「研修3週間後」には,アンケートではなく,スタッフが参加者に直接,電話をかけた。それによると,回答者の94%が研修後,所属先で改善のための行動を起こしていることがわかったという。なお,目標達成のための情報や援助を必要としていれば助言を行った。

そして,「研修3ヵ月後」にはアンケートを配布し,各図書館でどのような変化があったか,目標は達成できたか,などについて尋ねた。その結果,回答者の17%が所属先で保存関係の予算を増やしており,79%が事前に設定した目標を達成していることがわかったとしている。現在直面している問題としては,時間の不足が59%,続いてスタッフ不足,財源問題などが挙げられているが,まったく問題なしという回答も14%あった。

「研修前」のアンケートの回収率60%に比べ,「3ヵ月後」のアンケートは31%と少ないようであるが,ともかく当初掲げた三つの目標も達成したとみなされた。プロジェクトが終了した現在も,電話での調査は続けているそうである。

プロジェクトの結果を活かし,SOLINETはさらに進んだサービスを展開しようとしている。これからの活躍にも期待が持てそうである。他の地域保存センターの動向も気になるところである。

村上 直子(むらかみなおこ)

Ref: Wiseman, C. et al. Preservation workshop evaluation. Libr Resour Tech Serv 45 (2) 95-103, 2001
SOLINET. [http://www.solinet.net/] (last access 2001. 11. 13)