CA1418 – 英国の学校図書館の近況−ナショナルカリキュラムを中心に− / 山崎美和

カレントアウェアネス
No.265 2001.09.20


CA1418

英国の学校図書館の近況―ナショナルカリキュラムを中心に―

英国は,イングランド,ウェールズ,スコットランド,北アイルランドの四つの国からなる連合王国である。それぞれの国は独自の文化を持ち,学校教育制度も異なっている。イングランドとウェールズでは,11歳で初等学校を修了すると,主に選抜試験のない総合制中等学校へ進むか,試験によってグラマースクールへ進む。北アイルランドでは,11歳ないし12歳で初等学校を修了すると,グラマースクールか中間学校に進学する。スコットランドでは,無試験で公立中等学校へ進学することができる。また,これら公立(公的補助)の学校とは別に,私立の初等・中等学校も存在している。カリキュラムについては全国基準がなく,長らく地方教育行政当局や校長・教員に委ねられていたが,1988年に制定された教育改革法でナショナル(全国共通)カリキュラムが導入された。

英国の学校教育制度が近年,徐々に変化してきているなかで,学校図書館は様々な問題点と直面しながらサービスを展開してきた。英国では,初等学校で図書館が設置されているところは非常に少ない。小規模校が多く,子どもの学習活動に本を結びつけていくことに重点が置かれ,本格的な図書館利用はあまり重視されていないからである。一方,大部分の中等学校には学校図書館が設置されている。しかし,他の館種と比較すると発展が遅れているといわれている。その原因は主に二つある。

一つは「人」の問題である。英国の場合,学校図書館職員の勤務形態には次の四つの型があるが,一般的なのは(4)の型である。
(1)地方の図書館行政庁が学校司書として任用し,学期中は学校図書館,長期休暇中は公共図書館に勤務する。
(2)地方教育行政当局が専任の公認司書として任用し,教員とまったく同等の勤務条件で特定の学校に勤務する。
(3)地方教育行政当局または図書館行政庁が任用した公認司書が複数の図書館に勤務する。
(4)各学校の校長が教員に兼任で図書館担当を命じる。
また,学校図書館職員の資格要件について英国図書館協会と英国学校図書館協会の意見が異なっていることも,「人」の問題を深刻にしている。

もう一つの原因は,学校図書館に対する国家的施策の不在である。教育行政が地方レベルで行われている英国では,中央政府が拘束性を持った法規を出すこともあまりない。学校図書館についての指示といえるのは「各学校に学校図書館という呼称の部屋を設置しなければならない」くらいのもので,図書館に必要とされる条件を定めた法令や基準はなく,地方教育行政当局や学校長の裁量に委ねられていた。このように学校図書館にとって厳しい状況のなか,学校図書館の活動を支えていたのは,公共図書館による「学校図書館サービス」である。

公共図書館による学校図書館サービスは20世紀初頭から存在していた。基本的なサービスの内容は次のとおりである。
(1)学期ごとや一年ごと,または長期間の図書の貸出
(2)調べ学習用の図書の貸出
(3)話題のテーマについての展示等の開催
(4)新刊図書案内のリストや他の図書情報に関する印刷物の刊行
(5)資料の発注や受入作業の代行
(6)教員への助言や図書館運営の指導

学校図書館サービスは,ほとんどの自治体で公共図書館の中の一セクションが担っている。自治体によっては,学校からサービス料を徴収する半ビジネス方式や,公共図書館からは完全に独立したビジネス方式をとっているところもあるが,今後は,サービス料を徴収するビジネス方式が増加していくのではないかと予想されている。

また,ナショナルカリキュラムに「情報収集方法の習得」が盛り込まれたことにより,学校図書館は資料提供,情報検索という従来の役割から情報活用能力の育成という新たな役割を担うこととなった。実際,英国政府は,2002年までにすべての学校をインターネットで結ぶ計画を進めており,2000年4月の時点で,初等学校の85%,中等学校の98%がインターネットへの接続を終えている。政府が学校内のIT化を推進する一方で,教員のスキル不足や設備不足が問題点として挙げられており,IT化に合わせたサービス内容が期待され始めている。

このように,学校図書館サービスの内容や組織の在り方も徐々に変化しているが,英国の学校図書館をめぐる状況には,日本との共通点がいくつか見てとれる。以前からその重要性が認識されていたこと,国家的施策の不在にもかかわらず大部分の中等学校には学校図書館が存在していること,英国ではナショナルカリキュラム,日本では「総合的な学習」の導入などが注目される次期学習指導要領において,学校図書館の重要性が再認識され始めていることなどである。

両国とも独自の歴史や文化,そして教育制度を発展させてきた。同じことが学校図書館についても当てはまるのではないだろうか。他国の学校図書館を参考にすることはあっても,それに束縛されず独自の学校図書館像や在り方を模索してもいい時期ではないだろうか。ゆっくりとではあっても,着実によりよい方向へ発展することを期待したい。

山崎 美和 (やまさきみわ)

Ref: Tilke, A. Advisory roles of schools library services in the United Kingdom. New Rev Child Lit Librariansh (3) 11-37, 1997
須永和之 イギリスの学校図書館利用教育について 学校図書館学研究  37-47,1999
中山ひとみ 英国における公共図書館と学校図書館の連携 ひびや(149) 64-72,1999
現代教育新聞 2001.5.1