CA1410 – 米国の公共図書館におけるデータベース利用状況 / 菊地祐子

カレントアウェアネス
No.264 2001.08.20


CA1410

米国の公共図書館におけるデータベース利用状況

商用データベースを提供する場合,図書館はプロバイダとライセンス契約を結ぶ必要があるが,通常,データベースの利用料金は,同時に何人のアクセスを許可するかによって決まる。したがって,人数の予想が正確にできれば無駄な料金を支払わなくて済むが,導入前に正確な予想を立てるのは難しい。それならば,実際の利用データがあれば,予想に役立つのではないだろうか。このようなことから,さまざまな規模の図書館について,利用者のデータベース利用傾向を把握するための調査が米国で行われた。調査は大学図書館についても行われたが,ここでは公共図書館のみ取り上げる。

調査は大きく二つに分かれている。調査1は,利用データによってデータベースの利用パターンを調べるもの,調査2は,調査1で明らかになった利用傾向の要因を調べるものである。対象とした図書館は,データベースプロバイダの顧客リストからランダムに抽出した,米国とカナダの公共図書館98館である。対象としたデータベースは,一般的なデータベースからビジネス関係,医療関係まで計37種類である。

まず,調査1では,プロバイダが10分ごとに記録している各データベースへのアクセス数のうち,1997年7月から12月の6か月,午前8時から午前0時までの16時間について,1時間おきのデータを抽出し,分析を行った。

全体では,同時アクセス人数で最も多かったのが「0人」(つまり,利用者なし),平均は0.3人であった。また,図書館の規模にかかわらず利用パターンは似ており,利用のピークは「11月」「月曜日」「午前11時〜午後5時」である。利用者はいつでも家庭や職場からデータベースにアクセスできるにもかかわらず,ピークの時間帯は図書館への来館者数のピークと一致している。

一方,データベースの種類(分野)によって利用パターンは多少異なっている。一般的なデータベースと医療関係のデータベースの利用パターンは似ているが,ビジネス関係は異なっている。学校が休暇中の7月は,一般的なデータベースと医療関係のデータベースはそれほど利用が多くないのに対し,ビジネス関係のデータベースは11月と同じくらい利用が多い。また,ビジネス関係のデータベースは仕事がある平日には平均して利用されている。

また,複数人が同時にアクセスしている割合も分析している。その結果,特に,小規模な図書館においては,一般的なデータベースに利用者が1人しかアクセスしていない時間帯は,全体の95%にも上る。対象人口100万人以上の大規模図書館においては,75%に減る。また,対象人口25万人までの規模の図書館では利用時間全体の99%,対象人口100万人以上の規模の図書館でも89%が同時アクセス人数5人以下である。

分野別に見ると,ビジネス関係や医療関係などの利用が少ない。ビジネス関係のデータベースでは,どの規模の図書館でも,利用時間の99%が同時アクセス人数は4人以下である。また,医療関係のデータベースでは,ほとんどの規模の図書館で利用時間の97〜99%が同時アクセス人数3人以下である。

これらの結果から,調査者は,図書館員はデータベースを購入する際に,人口規模だけでなくデータベースの種類をも考慮しなくてはいけない,と述べている。

次に,調査2では,各図書館にアンケートを行い,利用者用データベースの環境について調査した。対象は調査1と同じ98館であり,60館から回答を得た。

まず,提供しているデータベースの種類や価格,利用状況(端末数や利用可能時間など)についての主な結果は次のとおりである。

  • 今回調査対象になったデータベースは人気の高いものである…86%
  • 10台以上の端末でデータベースを提供している…83%
  • 図書館にある端末の4分の3以上で商用データベースを使うことができる…75%
  • リモートアクセスを提供している…70%
  • データベース専用端末がある…22%
  • 図書館のシステムのメインメニューにデータベースのことを載せている…70%
  • 利用者がログイン,もしくは端末の前に座ってからデータベースを利用できるまでに3ステップ以内である…87%
  • データベースの利用法を教えている…62%
  • プリントアウトできる…60%
  • 学生の宿題に利用されている…95%

なお,図書館の規模別にみると,多少の差はあるものの,傾向が分析できるほどではなかった。

また,利用者のデータベース利用に影響を与える要因について尋ねたところ(各要因について「影響なし」「多少影響あり」「大いに影響あり」を選択,もしくは自由記述方式),用意した9項目のほとんどについて影響があると回答している。なかでも一番重要なのはデータベースの内容であると図書館員は考えている。データベースの有用性もしくは質が利用者のデータベース利用に大いに影響を与えると回答した図書館はそれぞれ88%と77%に上り,影響はないと回答した図書館は1館もなかった。

ついで,他のデータベースや紙媒体では調べられない情報を含んでいること(唯一性),端末台数,開館時間,ログインのしやすさなど(利便性)も図書館員は重要な問題であると考えている。特に,限られた資料しか持たない小規模図書館にとって「唯一性」は重要な問題のようだ。ある小規模図書館が独自に行った調査では,利用者があるデータベースを利用した主な理由として「そのデータベース以外に使えるものがなかったから」という結果を得ている。一方,影響がないという回答が50%近くあったのは,利用者への課金のみであった。さらに,利用者があるデータベースを選択した理由についても尋ねているが,これに対しては,ほとんどが「使いやすかったから」と回答した。

今回の調査で明らかになった利用傾向は,「利用者はデータベースをあまり利用しておらず,その利用も図書館の開館時間帯に多い。つまり図書館外部からデータベースにアクセスできるにもかかわらず,そのメリットを生かしていない」ということであった。一方,図書館員は,利用者がデータベースを利用する際に重要なのは内容であると考え,データベースを選択する際には使いやすいことが理由となっていると考えている。調査2のアンケートは図書館に対して行われたため,結果として図書館員が考える利用者の利用行動を調査したことになり,調査上の問題点であるといえるが,同時に今後の図書館に対する課題を示している側面もある。データベースがあまり利用されていない現状を考えると,データベースの広報や提供方法は図書館にとって検討を要する課題であろう。

菊地 祐子(きくちゆうこ)

Ref: Tenopir, C. et al. Database use patterns in public libraries. Ref User Serv Q 40(1) 39-52, 2000
Tenopir, C. et al. Patterns of database use in academic libraries. Coll Res Libr 61(3) 234-246, 2000