CA1392 – 米国の大学図書館における資金調達活動 / 山田邦夫

カレントアウェアネス
No.261 2001.05.20


CA1392

米国の大学図書館における資金調達活動

米国の家庭では,募金のダイレクトメールがやたらと郵便受けに届く。福祉・ボランティア団体や自然保護団体はもちろん,博物館や劇場,退役軍人会,近所の消防署などからも寄付依頼が来る。なかにはロバート・レッドフォードやジミー・カーターといった超有名人のサイン入り(もちろん印刷だが)のもある。ほとんどはゴミ箱行きになるが,たまに気が向くものがあれば10ドルでも小切手を切って,返信用封筒で送り返せばよい。以下は,かの地では大学図書館においてもまたそのような活動が活発化しているという報告である。

米国で大学が財政難に見舞われるようになったのは1970年前後からといわれる。この頃から,外部からの資金調達(fund-raising)に乗り出す大学や大学図書館が増え,財政状況の悪化が加速した1980年代には,こうした活動を行う大学図書館が急増した。なお,ここでは触れないが,一般の公共図書館も同じような経過をたどっている。

さて,ドナー(寄付者)の獲得にはさまざまな手法がある。冒頭に挙げたダイレクトメール作戦は,コストはあまりかからないが効率は悪い。それよりは「電話戦術」の方が効率がいい(英語ではtelefundまたはphonathonという。何の造語かは容易に見当がつく)。もっと効果が上がるのは,大口の寄付が期待できる人に直接面談することだ。もちろん,ウェブも活用されている。多くのNPOと同様,米国の大学・大学図書館のウェブサイトには,どこかに寄付案内のコーナーが設けられている。また,大学図書館の多くは「友の会」を運営しているが,今ではこれが資金集めのテコに使われつつある。友の会の会員は普通,卒業生や近隣の住民である。寄付の見返りには,ドナーの名前の蔵書票への記載,図書館利用上の特典,ニュースレターの送付,館主催イベントへの招待,大学出版物の値引きなどがある。また,以上のようにして獲得したドナーは,その名簿を作成し,「ドナープール」として継続的な協力を期待する。

資金調達の形態は大口・小口の寄付金にとどまらない。委託金,遺贈,証券,現物寄贈といったものもあれば,企業や財団からの補助金もある。これらの業務活動の責任者は「振興開発責任者(development director)」などと称されることが多いが,資金調達担当者として,鉦や太鼓を叩いて回るだけではなく,財産管理や税金対策もわかっていなくてはならないのだ。

ハーバード大学やイェール大学,あるいはニューヨーク公共図書館のような権威ある老舗はともかく,新規に参入しようというところには,仲間や手引きがあれば心強い。そこはよくしたもので,米国図書館協会(ALA)の一部会である図書館管理・経営協会(Library Administration and Management Association: LAMA)には,資金調達問題等を扱う部門(Fund Raising and Financial Development Section)があるし,

1995年には振興開発責任者の交流組織として,学術図書館振興開発ネットワーク(Academic Library Advancement and Development Network: ALADN)が発足している。ALADNはLIBDEVという会員相互の情報交換用のリストサーブ(メーリングリスト)を設けている。またALAなどからは,資金調達や友の会についてのマニュアルがいくつも出版されている。
1996年,北米の大学図書館を対象に,資金調達業務の実態に関するアンケート調査が行われた。157館から回答があり,うち90館が振興開発業務(プログラム)を行っていた。以下,調査の結果を紹介する。

まず,資金調達の担当責任者について――。

  • 52%が資金調達の担当は初めてであり,その在職期間は平均3年に満たない。また,45%はその担当自体が新設のものであった。
  • 76%は修士号(過半数が図書館学)を持っているが,資金調達について正規の教育を受けているのは3%に過ぎない。
  • 担当者が大学側へも事業報告を提出しているケースは19%に過ぎず,その多くは長年の経験があるところである。これに対して図書館長にのみ報告を行っているのは79%で,多くは事業発足後間もないところであり,大学側の振興事業とは独立にこのポストを設けたことが伺われる。

次に,資金調達の業務について――。

  • 業務開始後3年以下,および3年超10年以下が各々41%,10年超が17%を占める。最長は25年であった。
  • 資金集めの年間目標は平均110万ドルだが,施設建設費などの一時的な資金需要を除くとだいたい60万ドルに落ち着く。実際に調達している金額は,公立大学で平均45万ドル,私立大学で平均90万ドルであった。
  • 寄付のタイプ別でみると,個人からの寄付金が47%,以下,委託金・遺贈等29%,現物寄贈17%,企業や財団からの助成19%。
  • 資金調達のコストは,担当者の給与を除き年平均1.2万ドルだが,成果の挙がっているところは2.5万ドル,なかには15万ドルもかけているところもあった。
  • ドナーの数については,図書館には「同窓会」がないだけに,大学本体に比べ非常に小さく,1,500人以下のところが79%を占める。ドナーのタイプについては,友の会ないし地域住民が40%,以下,卒業生29%,企業・財団11%,学生の親8%,学生5%。
  • 資金調達業務において何を重要視するかについては,大口の寄付という回答がトップ,ついで基金の創設・拡充,委託金・遺贈等の計画的寄付,企業・財団の助成と続く。一方,友の会に対する期待は低い。
さらに,成功への要因について――
  • 成果が目に見えるようになるまでには何年もかかる。実際,概して7年以上経たところが大きな成果を挙げており,それ未満のところは調達額が非常に少ない。年季の入ったところはドナープールも大きく,結果として実入りも大きい。
  • 図書館長の参加も成功の要因である。最高水準の額を挙げている図書館は,館長が勤務時間の平均50%を資金調達に割いている。
  • 振興開発責任者が資金調達専任である場合は,他の図書館業務にも携わる場合に比べ,4倍近い額を調達している。最も重要視される大口の寄付の場合,結果が見えるまでに多くの時間とエネルギーを要するものだが,少数の大口ドナーに精力を傾注できることが大切だと考えられる。
  • 機関のタイプ別でみると,私立は公立よりも経験が長く,額も大きい。また研究総合大学(research university)は年平均110万ドルと抜きん出ているのに対し,コミュニティカレッジは10万ドルにとどまる。
  • 大学本体の振興事業とつながっている方が,実質的に多くの資金を獲得している。

この調査は,サンプル数があまり多くないように思われるが,それでも現時点における一定の傾向を示しており,かつ調査に基づいた分析により「成功」の条件を提示しているところが興味深い。

米国において上述のような努力が可能となる前提としては,公益事業に対する寄付活動を積極的に評価,推進しようとする社会的土壌があり,税金対策も含めたノウハウが確立していること,財団等の助成活動が活発であること,公立の機関を含む非営利組織が主体的に外部資金導入や資金運用を行える柔軟な予算・会計制度を持っていることが伺われる。

山田 邦夫(やまだくにお)

Ref: Hoffman, I. M. et al. Factors for success: academic library development survey results. Libr Trends 48 (3) 540-559, 2000
Dewey, B. I. Raising Money for Academic and Research Libraries: a How-To-Do-It Manual for Librarians. Neal-Schuman Publishers, Inc., 1991. 138 p
Steele, V. Becoming a Fundraiser: the Principles and Practice of Library Development. ALA, 1992. 139p