CA1380 – 革命から10年,ルーマニアの図書館事情 / 水戸部由美

カレントアウェアネス
No.259 2001.03.20


CA1380

革命から10年,ルーマニアの図書館事情

ルーマニアでは1989年12月にチャウシェスク政権が崩壊し,社会全体が急激な変化にさらされた。革命直後のルーマニアの図書館については以前紹介されたとおりだが(CA719参照),今回はその後の状況を紹介する。

革命後,検閲が廃止されて図書館は第二次世界大戦後初めて全蔵書を一般に公開した。また,図書館のない私立大学の開設,印刷物の価格急騰も手伝って,図書館利用者は増加する一方である。他方,共産主義時代に全国で建設された図書館は5館以下という貧弱な建物環境,大きな図書館にしかコピー機がなく,特別許可を得た職員だけが使用しているという設備の不足,ほとんどの蔵書が政府の宣伝を目的とするルーマニアの出版物という蔵書構築,国で唯一の図書館学校だったブカレスト大学図書館学部が1970年代に廃止されたこと等による専門職員の不足などが,共産主義時代の負の遺産として残った。

専門職員を養成するために,教育省はブカレスト大学図書館情報学部を1990年に再開し,米国,英国,フランス等の西欧諸国が専門家の派遣等の援助を行った。20年以上も公的な図書館情報学の教育が行われず,職場内での研修に頼ってきたが,現在はセミナー,ワークショップ,国内外での会議や業務交流等,図書館員のための継続的な教育が各種実施されている。

1989年12月の動乱で破壊されたブカレスト大学中央図書館は,ユネスコをはじめ国際社会の支援金を使って再建され,現在では国で最も現代的な図書館となっている。社会主義教育文化国家評議会の監督,検閲を受けた公共図書館は現在,文化省が監督し,財政面では地方自治体の管轄下にある。学術・学校図書館は教育省が,専門図書館は各々所管の省が監督している。

図書館員の意識はどうであろうか。1998年8月,クルージュ県図書館(Cluj County Library)の主催で図書館経営をテーマとするワークショップが開催され,ルーマニア各地の公共・学術図書館の図書館員,管理職,館長,計24人の参加者を対象に調査が実施された。回答者の7割が「サービス」を図書館の第一目標とし,そのためには職場環境の向上とそれを可能にするマネジメントおよび研修が必要であると答えた。また,ほとんどの回答者が革命前よりサービスが向上したと答えている。

とりわけ,共産主義時代の党のイデオロギーに忠実なトップダウン方式に代わる,新しい経営スタイルが必要とされている。フラットな組織で働く職員は自らの組織形態がサービスによい影響を,逆に従来式のピラミッド型組織で働く職員は自らの組織形態がサービスに悪影響を与えると答えている。また,最近の大きな変化として挙げられた,業務の機械化,組織構成の変化についても,おおむね肯定的に捉えられている。そして,研修,立案過程への職員の自主的な関与,機器整備などが必要だとされている。回答者は,ルーマニアの図書館員が新しい方向に向かうためには,職員の自由な発言を阻む「古いメンタリティ」から脱却して,組織文化と政策が変化することが必要だと考えており,マネジメントや政策決定に関する今以上の研修を求めていることがわかった。

この調査によってルーマニアの図書館員の要望がある程度あぶりだされたといえるだろう。こうした要望に応えつつ,ルーマニアの図書館界がさらに発展していくことを期待したい。

水戸部 由美(みとべゆみ)

Ref: Owens, Irene et al. Plowing in rocky land: organizational culture, managed change, and quality improvement in selected Romanian post-communist libraries. Int Inf Libr Rev 31(4) 197-224, 1999