CA1379 – 公共図書館における統計の利用目的 / 梶田英知

カレントアウェアネス
No.259 2001.03.20


CA1379

公共図書館における統計の利用目的

今回紹介する調査報告は,米国において,統計の利用実態調査が不十分であるという認識のもと,米国図書館協会公共図書館部会のPublic Library Data Service: Statistical Report(PLDS)と米国教育統計局のFederal-State Cooperative System(FSCS)という2種類の全国規模の統計情報が,図書館経営においてどのように利用されているかをまとめたものである。

調査はサービス対象人口20〜40万人の公共図書館経営者に対するアンケート(サンプル調査)により行われた。アンケートの配布数は71,回答数は61(回答率86%)であった。このうちPLDSとFSCSのどちらも利用しないと回答したのは3館(5%)のみであった。また,FSCS(37%)よりもPLDS(95%)のほうがよく利用されていた。これは,約6か月で集計結果を報告するPLDSに対し,FSCSは2年前のデータを報告することや,州ごとに集計するFSCSに対して,PLDSはサービス対象人口の規模ごとに集計結果をまとめていることが原因だと推測される。

まず,利用頻度について,最後に統計を利用した時期を尋ねたところ,PLDSでは「最近3か月以内」の利用に集中し(74%),それより以前の利用は低かった。それに対して,FSCSでは「10か月より前」とする回答が最も多かった(36%)。

次に,統計を利用する目的を18の調査項目に分類し,それぞれ「大変よく使う」から「使ったことがない」までの5段階で尋ねた結果,「利用する」と回答したもの(「使ったことがない」以外)を合計すると,「人口1人あたり数値の比較」(PLDS 93%,FSCS 34%),「図書館界の動向の確認」(同 91%,30%),「資金調達」(同 89%,35%)の割合が高く,「ILLサービスの評価」に対する割合は低かった(「使ったことがない」と回答した割合は,PLDS 54%,FSCS 85%)。

また,18の項目を機能の点から5つにグループ化して回答結果をまとめたところ,「図書館間比較」(PLDS 59%,FSCS 8%)と「史的調査」(同 51%,13%)に対する利用率が高く,その一方で,「経営管理」や「サービス評価」に対する利用率は低かった。なお,5つのグループと18の項目は次のとおり。

  • 計画策定:資金調達,予算計画,政策の分析・調査,事業計画
  • 経営管理:経営に関する研究,給与問題の検討,蔵書構築,テクニカルサービスの改善
  • サービス評価:貸出サービスの評価,レファレンスサービスの評価,ILLサービスの評価
  • 図書館間比較:人口1人あたり数値の比較,投入量(input)による比較,産出量(output)による比較,平均値による比較,百分率による比較
  • 史的調査:図書館界の動向の把握,経時的調査

調査では,各統計情報の満足度についても尋ねている。PLDSとFSCSについて,「大変役立つ」から「まったく役立たない」まで5段階で尋ねたところ,「大変役立つ」または「役立つ」と回答したものは,PLDSで87%,FSCSでは45%となった。なお,FSCSに対しては「まったく役立たない」という回答が10%あった。

PLDSとFSCS以外に利用する統計情報については,回答者の71%が他の統計情報も利用していた。主なものは,州の図書館統計(60%),自館作成の統計(16%)であり,他に国勢調査などが使われていた。特に州の図書館統計は,FSCSよりも高い割合で利用されていた。

以上のような調査結果から,結論として次の4点が挙げられる。

  • 図書館は統計情報に高い関心がある。
  • 特に図書館間を比較するために利用している。
  • 図書館は,調査の時期,方法など,統計ごとの特徴を踏まえて幅広く利用している。
  • 統計の利用率と満足度には,正の相関が見られる。

非営利組織の経営者にとっておそらく最も重要な課題は,使命の設定,事業目標の設定および運営資金の確保であろう。調査結果でも,それを裏づけるように,図書館間の数値比較や図書館界の動向の把握,資金調達を目的とした統計情報の利用率が高い割合を示していた。必要な情報源の一つとしては,PLDSが高い支持を得ていた。

日本における全国規模の図書館統計には,「社会教育調査」(文部省)や『日本の図書館』(日本図書館協会)の調査によるものがある。これらはどのように利用されているのだろうか。

梶田 英知(かじたひでとも)

Ref: Liu, Yan Quan et al. Public library use of statistics. Pub Libr 39(2) 98-105, 2000