CA1364 – 英国公共図書館におけるボランティアの現状 / 齋藤純子

カレントアウェアネス
No.257 2001.01.20


CA1364

英国公共図書館におけるボランティアの現状

英国では公共図書館でのボランティア使用には10年以上の歴史があるが,97年の政権交替以降,ボランティアが改めて注目されている。労働党政府は,民主的な社会の発展にボランティア活動は不可欠であるとして,ボランティアがコミュニティの活性化に果たす役割に大きな期待を寄せている。一方,行政サービス改革のために政府が推進する「ベストバリュー政策」のもとで,各地方自治体は,可能な限り高水準の行政サービスの提供をめざして,すべてのサービスを見直すことを求められている(CA1261参照)。図書館のボランティアに即して言えば,使用館は効果の観点から再評価すること,不使用館は使用館と比較して自館のサービスを評価することを要求されよう。

英国図書館協会(LA)は,公共図書館でのボランティアの使用と管理に関する調査をコンサルタントに委託していたが,その報告書が2000年6月に提出された。報告書の基礎をなすのは,英国にある209の図書館行政庁(library authority)を対象とするアンケート調査(回答率87%)といくつかのケーススタディである。以下,内容を紹介していくが,報告書の9つの付属資料のうち,特に「付録H ケース・スタディの概要」と「付録I 公共図書館におけるボランティアの使用と管理:ガイドライン草案」が実践例を紹介しており参考になる。

さて,報告書によれば,ボランティアの使用状況は地域によって異なる。使用館の割合は,イングランド(ロンドン特別区(London Borough)を除く)で85%,スコットランドで82%であるが,ロンドン特別区では39%にとどまる。全体では25%がボランティアを使用していないが,その理由には職員・労働組合の反対と自治体の方針が挙がっている。

ボランティアが従事している業務としては「宅配サービス」を挙げたところが75%,「地方史・地誌研究」が26%,「病院サービス」が21%である。以下,多い順に「お話し会」「子どもの利用促進活動」「文書のリスト作成」「新聞の索引作成」「宿題の手伝い」「読書グループのリーダー」「IT援助」などである。ボランティアを使用している期間については,69%が「10年超」と回答している。

ボランティアの募集方法は「口コミ」(56%)と「図書館内の広告」(54%)が一般的である。他に「本人の申し出」「地域のボランティア事務所の利用」「地方メディアでの広告」などがある。採用の前に面接を行うところが67%,48%が身元を照会し,45%が応募用紙への記入を求め,30%が「危険にさらされる」グループ(高齢者や子ども)のために経歴等を審査し,10%が契約書への署名を求めている。

ボランティアに対する研修を提供しているところは,使用館の75%以上に及ぶ。内容は,安全衛生教育が31%,入門教育が17%,接客教育が17%,障害に対する意識教育が15%となっている。ボランティアに対して正式の人事評価を定期的に行っているところは9%に過ぎないが,21%の館が長期のボランティアに対して表彰などを行っている。

では,具体的にはどのような実践例があるのだろうか。以下にいくつかの例を挙げてみる。

  • 宅配サービス
    ロンドンのベクスリー区(London borough of Bexley)では,ボランティア団体のWRVS(Women's Royal Voluntary Service)と協力して宅配サービスを提供している。住民から宅配サービスの要望があると,図書館職員が訪問してサービスを受ける資格の有無を審査し,読書の希望について尋ねる。その情報はWRVSのコーディネーターに伝えられ,ボランティアの手配をする。ボランティアは地域の分館から図書を選び,4週に1回訪問する。WRVSはボランティアの募集と選抜,監督に責任を負う。OJTと新着情報の提供などを図書館が担当する。
  • 地方史・家系研究
    バーミンガム市では,地方史・家系研究部門のために,面談によりボランティアを採用している。ボランティアには,資料保存で経験を積みたい学生と地方史・家系研究に関心を持つ個人の2つのタイプがある。
  • 分館の運営
    イーストサセックス(East Sussex)カウンティでは,職員の単独勤務を避けるため,小規模な分館で職員を補助するボランティアを採用している。
  • IT援助
    ダンディー(Dundee)市立図書館では,CD-ROM利用とインターネット接続の援助のためにボランティアを使用している。ボランティアは地方史・地誌研究部門のIT業務の支援も行っている。
  • 読書の推進
    バーミンガム市では,子どもの読書推進プログラムに約400人のボランティアを使用している。市内主要企業が,プログラムに参加する従業員の勤務を免除することにより協力している。ボランティアは,コミュニティの構成を反映するよう多様な年齢層,人種から採用され,研修を受けた後,市内の学校に派遣され,子どもと一緒に本を読むなどの活動を行う。

報告書は,結論部分で,図書館の「コアサービス」でのボランティア使用の是非については論議があろうが,「コアサービス」の概念は変化を続けているとして,公共図書館はあらゆるサービスにおいてボランティア使用の検討の用意をすべきであると述べている。その上でLAに対し,職員の代替に関する憂慮を考慮してボランティアの適切な使用と管理に関するガイドラインを採択することなど3点を勧告した。

LAの公共図書館委員会は2000年7月20日,報告書の審議を行い,ガイドラインの策定を決定した。付録Iの草案をたたき台として新ガイドラインが11月28日の委員会で承認され,2000年内に公表される予定である。

齋藤 純子(さいとうじゅんこ)

Ref: Cookman, Noeleen et al. The Use of Volunteers in Public Libraries: a Report to the Library Association. 2000. [http://www.la-hq.org.uk/directory/prof_issues/vols.html] (last access 2000.10.27)