CA1363 – 補佐職員の実態−シンガポールの例− / 小田嶋ひとみ

カレントアウェアネス
No.257 2001.01.20


CA1363

補佐職員の実態―シンガポールの例―

図書館職員の専門性について論じられる機会は多い。そこで繰り広げられる議論の多くは,他の資格や専門職の優位性と比較したもののように思われる。つまり図書館の外との関係であるが,米国をはじめ諸外国では,職員の処遇など図書館の中においても議論が展開されている(CA1326参照)。それは有資格職員(professional)と補佐職員(paraprofessional)のキャリアやそれぞれの担う役割をめぐるものである。

近年,シンガポールにおいても,テクニカルサービスが主であった補佐職員の職務に広がりが見られる。このことを検証するため,シンガポールの公共図書館で働く補佐職員を対象とした調査が行われた。調査は1998年に実施され,現在の業務と以前の業務の比較,有資格職員との職務の重複の状況,また研修を継続することの必要性,資格・学位取得の希望などについて尋ねている。

回答の大部分が業務の広がりを認めるものであった。業務内容としては,各種プログラム(ストーリーテリングなど),レファレンスサービス,OA機器のメンテナンス,職員に対する研修などが挙げられている(これらのうち,各種プログラムやレファレンスサービスは,有資格職員の職務と捉える向きが強い)。

また研修の必要性を感じるものとして,レファレンスサービス,利用者対応(カウンター業務),コンピュータ関連の業務などが上位に挙げられている。補佐職員たちは利用者対応に自信を窺わせる一方で,利用者の様々な要望に応じるためさらなる研修を必要と考えており,特に,ITの分野への関心が高い。顧客の要望に応じよう,自身も納得のゆくサービスを展開しよう,という姿勢に,よく練れた職人のイメージが重なる。

図書館には様々な業務があるが,とりわけレファレンスサービスは図書館職員の職業柄を特色づけるものといえよう。シンガポールでは,1997年より図書館委員会(National Library Board:NLB)が新たな給与制度(RLPS:Reference Level Promotional Scale:RLPS)を導入した。これは「レファレンスレベル」に応じて給与が支払われるという制度で,補佐職員たちはその能力によって,有資格職員の給与に近づくことが可能になった。補佐職員の多くは,今後この制度におけるレファレンスレベル,つまり給与もキャリアも上がると見込んでいる。志気の高まりとともに,それだけレファレンスサービスに関与してきた,という彼らの自負が感じられるところである。

RLPSの導入により資格取得にも関心の集まるところだが,NLBはテマセック専門学校(Temasek Polytechnic Institute:TPI)での課程受講の支援制度を設けている。調査対象である補佐職員の52%がTPIでの資格取得に積極的な考えを持っているのに対し,39%はそこでの資格取得を望んでいない。TPIでの受講期間の長いことと,それによる家庭生活への支障を危惧してのことである。また,資格を取得しても,この給与制度が維持されていくのか,などといった疑問も拭えないようだ。

処遇も職権も変わらないまま,有資格職員との職務内容だけが近づいてゆくという事態に,RLPSは一応の区切りをつけた。RLPS導入の前後を比較したしたこの調査は,なかなか興味深い。この調査の結果を受けて,シンガポールの公共図書館での職員構成,レファレンスサービスを重視した制度がどうなってゆくのか,シンガポールの図書館事情としてはもちろん,ひとつの事例としても見続けてゆく価値があろう。

現時点で確固たる独自性を挙げることは難しいが,補佐職員の存在は,有資格職員の責務の重さをより際立たせるもののように見える。

小田嶋 ひとみ(おだしまひとみ)

 Ref: Han, Chow Wun et al. Changing roles of paraprofessionals in public libraries. Pub Libr Q 17(4) 11-32, 1999