CA1362 – 電子情報資源のグループ研修 / 山本晶子

カレントアウェアネス
No.257 2001.01.20


CA1362

電子情報資源のグループ研修

容赦なく進む電子情報資源の変化に対応して,図書館員は広く深い専門知識の構築と維持を求められている。しかしながら,図書館サービスのためのこうした学習は,一人で保ち続けるのは難しい熱意と労力を要するものである。

トロント大学図書館では,電子情報資源に関わる知識や技能を効率的に修得するため,職員育成委員会の助力のもとで,1997年,ERRGs(Electric Reference Resource Groups)と名づけられたグループでの研修を計画した。この構想は,「学習成果を上げるためには,学習者の誰もが,平等に参加し,協力しあい,積極的に学習過程に関与すべきである」という生涯教育の理念に基づくものである。

レファレンスサービスや利用指導の関係者のみならず,館内のすべての職員がこの研修の対象とされた。募集に応じた51人の参加者は,各々の関心によって,人文・社会科学系2,自然科学系1,混合3の6グループに編成された。

研修開始に先立ってミーティングが行われ,研修計画の説明や参加者の自己紹介のほか,グループの活動指針が定められた。指針の内容は,教えることと学ぶことの両方に必ず全員が関与すること,各グループの研修方針の決定にはメンバーの同意を必要とすることなど,メンバーの協同に重点を置くものである。

研修テーマの選定もグループごとに行われた。参加者の選んだテーマは,サーチエンジンやデータベース,特定の主題をネット上で調査する方法など多岐にわたっていた。各グループでコーディネーターが1名ずつ定められ,研修日程の調整や実習室の予約といった実務を担当するほか,必要に応じ職員育成委員会と連絡を取ることになった。

研修は月に2時間催されることになり,開始から3か月余の間に計24件の発表が行われた。この時点で,全参加者へのアンケートが実施され,それまでの評価が行われた。その結果,グループのメンバーがともに教え学ぶというERRGsの構想自体は,おおむね好評であることがわかった。知識が増え自信がついた,自発的な学習もするようになった,などと記す者が多かった。発表の質についても好意的な評価が多く,何よりも発表者自身の知識と技能の向上に資するところが大きいとの意見が出された。ただ,発表者のほとんどが,準備に11時間以上を費やしており,研修のために,業務の合間にそれだけの時間を割くのはかなりの負担であるという声も寄せられた。

各グループの研修の成否を左右した要素としては,出席者の数や,参加者の時間的余裕,コーディネーターの力量などが挙げられるが,初回の研修のでき具合も相当の影響を及ぼしていた。最初にうまくいかないと,その時点で研修に見切りをつけてしまう者が多かったのである。また,メンバーの参加目的や関心,基礎知識,レファレンスサービスの経験等に共通点があるかどうかも関係するほか,メンバーが連帯感を持ち,助け合って学ぶというグループの雰囲気も重要だった。熱意のある人の集まっている,団結力のあるグループが成功しやすいことはいうまでもない。

改善を要する点としては第一に,回答の多かった,形式ばらない議論にもっと時間を使いたいという点であろう。予め準備された発表を聴くだけでなく,他のメンバーとのコミュニケーションや情報交換の中で得るものも大きかったようである。もう一点はグループの規模に関する点である。圧迫感が生じないよう,あまり大きくしたくないと記す者もいたが,より多くの人と意見を交換したり知識を共有したりできる,および準備に要する一人当たりの負担を軽減できる,という二つの理由で,人数が多いほうが望ましいというのが大方の意見であった。

すでに順調に活動しているグループをどう維持するかという問題はあったものの,こうした要望を踏まえ,当初6つだったグループは最終的に,人文・社会科学系と自然科学系の2つに再編成され,月1回のペースで研修を続けることになった。

さらに研修機会を広げるため,1998年には,時間的制約などでERRGsに参加できない人も対象に含めた学習会が行われた。これは,「ネット上の刊行物」「Java入門」など,それまでのERRGsでの発表の中から参加者が選んだテーマを扱ったもので,多数の職員が出席し,内容的にも好評を博した。要望に応え,この学習会は翌年にも行われ,成功を収めた。

ERRGsの計画は,研修に関して各個人が責任を持つという意識を職員の間に育み,また図書館側も職員育成の重要性を認めて援助を行う姿勢を示しつつ,職員に必要な電子情報資源の研修を促進するという意図のもとに始まった。アンケートの結果や,現在も継続中のグループ研修の活発さ,そして学習会の人気ぶりは,ERRGsがレファレンス担当職員に対する学習機会の提供に成功したことを示している。しかし,高度な図書館サービスを目指して,より効果の上がる継続教育の方法を模索することは,職員育成に携わる者にとって,今後も難題でありつづけるに違いない。

山本 晶子(やまもとあきこ)

Ref: Mendelsohn, Jennifer. Learning electronic reference resources: a team-learning project for reference staff. Coll Res Libr 60(4) 372-383, 1999