CA1344 – 図書館における電子ジャーナルの提供方法−米国での事例を通じて− / 寺川彩

カレントアウェアネス
No.254 2000.10.20


CA1344

図書館における電子ジャーナルの提供方法
―米国での事例を通じて―

電子ジャーナルの普及が,大学図書館を中心に進んでいる。Webサイトでの提供方法を見ると,国内ではアルファベット順のタイトルリストのみを作成しているところが多い。しかし,タイトル数の増加に伴い,リストが長大になっているものも見受けられるようになってきた。

米国ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory: LANL)研究図書館(Research Library)では,電子ジャーナルの提供を始めた1996年には,アルファベット順と主題別のタイトルリストを用意した。しかし,当初19だったタイトル数が同年末には100を超え,タイトルリストが使いにくいものになってしまったために,見直しを行った。

まず,利用者から意見を集めた。電子ジャーナルをどうやって探すかについては,図書館のWebサイトと回答した人が多かった。また,手軽にアクセスできること,プリントアウトが簡単であること,画面上でブラウジングできることなどが特に求められていることがわかった。一方,目次のみや目次と抄録のみのもの,レスポンスが遅いもの,利用者登録やパスワードを必要とするものなどに批判が集まった。

この結果を踏まえ,図書館では,電子ジャーナルのMARCレコードをOPACで提供することにし,検討を始めた。主な検討事項は次のとおりであった。
(1)電子ジャーナルの範囲:原則として,すべてまたは一部をフルテキストで掲載しているものを採用する。目次や抄録のみのものは含めない。
(2)電子ジャーナルの探索方法:多様なアクセス経路を確保するため,OPACのほか,従来のタイトルリストも残す(出版者ごとのタイトルリストも加える)。
(3)採録するデータ項目:多くのWebサイトを見て回り,タイトル,URL,ISSN,所蔵(利用可能)巻号,概要(ジャーナルの内容分析などの簡単な説明),アクセス制限事項(あれば),パスワード(あれば),形式(提供されているフルテキストは全部か一部か),主題(Webサイトのカテゴリ),内部コード(図書館のための処理コード)を採用することとした(概要以下は,MARCレコードではローカルエリアの956フィールドを使用)。また,ページをスクロールするときの見やすさと,専門家と初心者の双方への対応を考慮して,「一覧表示」には資料の同定に必要な事項(タイトル,形式,所蔵(利用可能)巻号)のみを表示し,各タイトルごとに,概要などを含む「詳細表示」へのリンクを持たせることにした。パスワードが必要な場合は,LANLのIPアドレスを持つ端末からのアクセスであればパスワードも表示する。LANLで契約しているBIOSIS,SciSearch等のデータベースにも存在する場合には,それらへもリンクを張る。
(4)書誌作成単位:一つのタイトルに印刷版と電子版がある場合,書誌レコードは一つにする。利用者が求めているのは,目的の資料がどこにあるかという情報であり,媒体の違いによらず,一つのレコードとしたほうが好ましい。

これらの決定事項をもとに作成された新しいモデルは,1997年3月に導入された。その結果,1,2月には1,000件強だった電子ジャーナルページへの月あたりのアクセス数は,3月には約3,000件,4月には約4,000件を記録している。その後,タイトル数を増やした効果もあって,着実に利用者数を伸ばし,1998年には月平均10,000件超のアクセスを得ている(タイトル数は1997年3月の段階で269,1999年初め頃には約1,600)。

新しいモデルの導入は,利用者に好評だっただけでなく,図書館側にもいくつかのメリットをもたらした。従来,WebサイトやOPACなどに散在していた電子ジャーナルの書誌データを,MARCフォーマットに統一したことによって,データの追加・訂正が簡便になり,結果として省力化が実現された。さらに,正確性や速報性も増したという。

図書館では,現在も常時,利用者からのフィードバックを受けつけており,寄せられた意見は出版者にも提供されている。こうしたサービス面ではもちろん,情報の公正使用という点において,大きな利害関係を持つ両者の良好な関係づくりは,利用者の利益につながることになる。すでに国際図書館コンソーシアム連合(International Coalition of Library Consortia: ICOLC)など,いくつかの組織から,図書館やコンソーシアムと「情報提供者(出版者等)」との間での電子情報の取引等に関する声明文が出されているが,このような「情報提供者」との協議や協力関係を持つことは,今後いっそう重要になってくるだろう。

LANLの事例はまた,図書館にゲートウェイとしての役割が確実に求められつつあることを示唆している。ネット上の図書館サービスにおいても,ただコンテンツを集めるだけでなく,それらをいかに組織化し,使いやすい形で利用者に提供するかが大きな課題となる。そのための方策の一つとして,資料種別による分断のない検索が考えられており,ダブリンコア(Dublin Core)と各種MARCのマッピングなどの試みが行われている。そうした中で,電子ジャーナルのMARCレコードを作成することの意義は大きいといえるのではないだろうか。

寺川 彩(てらかわあや)

Ref: Frances L. Knudson et al. Leveraging the MARC record: automatic generation of electronic journal web pages. Ser Rev 25 (3) 1-11, 1999
International Coalition of Library Consortia. Statement of current perspective and preferred practices for the selection and purchase electronic information [http://www.library.yale.edu/consortia/statement.html] (last access: 2000. 4. 24)
Los Alamos National Laboratory Research Library.[http://lib-www.lanl.gov/] (last access: 2000. 4. 24)