CA1150 – 英国政府の法定納本諮問文書とその反応 / 松浦茂

カレントアウェアネス
No.218 1997.10.20


CA1150

英国政府の法定納本諮問文書とその反応

1997年2月,英国政府により,国民文化省(DNH)を中心とする関連省庁の共同刊行というかたちで,法定納本に関する諮問文書(Legal deposit of publications-a consultation paper)が公表され,納本機関をはじめとする関連団体,個人に送付された。DNHのホームページによれば,この文書は,電子出版物,映画,ビデオ,録音物,マイクロフィルムといった形態の資料(現時点では法制度によらず任意の納本のみがなされている)を念頭に置きつつ,1)新しい形態の資料の納本は任意のとりきめ(voluntary arrangements)によるべきか法定的な(statutory)それによるべきか,2)今後さらに新しい媒体が出現したとき,改めて立法することなしに納本範囲に含めることは可能か,3)納本対象の拡大に伴う特に出版者側の費用をどうするか,といった点を含む諸問題に関して関係各方面に意見を求めている。また同文書は,現行の印刷物に対する法定納本制度に関しても,納本部数(最大6部),法定納本図書館が存在しない北アイルランドにおける納本資料の利用可能性等に関し論点を提出している。

以上の論点に対するBLの回答をやはりホームページよりかいつまんで紹介しよう。第一に,BLは「任意の納本」という概念をはっきり否定しており,新しい形態の資料の納本も法定化されるべきであるとしている。ただし,その立法に関しては,将来の技術的進歩にかんがみ,上記2)の論点,選択的納本,不要資料の処分,機密的資料の閲覧停止,新しい形態の資料の納本先の指定等に関し,政府当局及び納本機関に裁量の余地を残すように求めている。部数に関しては,CD-ROM等携帯型の資料は6部,録音物は2部,マイクロフォーム資料は1部が望ましいと述べている。さらに,現行の印刷物の納本制度についての論点に関しては,なんら現状を変更する必要はないと主張している。

この諮問文書に対しては,出版者側(Publishers Association)からも回答が寄せられており,納本部数,資料の利用体制等に関して,出版者側の権利と利益にそった要望がなされているようである。

松浦 茂(まつうらしげる)

Ref: Department of National Heritage. From Caxton to CD-ROMs: Government seeks views on saving electronic publications for archives. http://www.coi.gov.uk/coi/depts/GHE/coi6700c.ok
The British Library. Legal deposit of publications: a consultative paper: response from the British Library. http://www.bl.uk/information/legal-deposit.html
Watson, Don. The future of history. Libr Assoc Rec 99 (6) 298, 1997