CA1129 – ALAGOAL 2000 / 前田章夫

カレントアウェアネス
No.214 1997.06.20


CA1129

ALA GOAL 2000

アメリカ図書館協会(ALA)は,21世紀を前に急激に変化している情報社会の中で,図書館の地位を確保し,ALAが国民の情報へのアクセスの権利を保障するための機関となることをめざした「ALA GOAL 2000(西暦2000年までにALAが達成すべき目標)」と称する向こう5カ年の新しい行動戦略を1994年10月に採択し,公表した。

1.「ゴール2000」が出てきた背景

人々が知識の創造,利用,分配に係わる機会が増えたことに伴い,図書館はこれらの活動のための中心的施設から周辺施設に追いやられている。しかも情報関連の討議の場において,図書館員の声はあまりなく,情報社会におけるALAの立場を明確にするようなビジョンも,ALAの機能と活動のための明確な目標と方向性も示されていない。図書館が主要な情報提供施設の一つであることを人々に知らせることをALAの重要な仕事としなければならない。

2.提案

「ゴール2000」は,自由で開かれた情報社会の中でのALAの存在を明確にし,知的自由を含むさまざまな公衆の権利と密接に関連したものにすることを意図しており,このことを人々の情報社会への[知的参加]の保障および促進と呼び,すべての人々をあらゆる形態の思想・情報・知識と結びつける,この知的参加の保障と促進をALAの中心的目標とすべきとしている。この目標を達成するために当面推進すべきこととして,「ゴール2000」は次の4つの提案を行っている。

(1) ALAワシントン事務所の機能の拡張

ALAを図書館分野およびその利用者に関する国内問題および重要な立法にかかわりをもち,影響を及ぼすようなものにするために,ワシントン事務所のスペースを拡張し,コミュニケーションとマネージメントのための技術の近代化を図り,図書館や専門機関,それに利用者へのアドバイザーやコンサルタントとして活動する能力の向上を目指している。

(2) OITの設立:専門的技術の補強

「ゴール2000」は,情報技術室(Office of Information Technology:OIT)の設立を提案している。OITは,ALAの評議会がすでに設立を勧告していたものであるが,ワシントン事務所の技術部門として,情報問題に関する国の政策論議から出てくるであろう無数の複雑な問題に関し,その意義の解釈や評価を担当するとともに,図書館界とALAに情報技術にかかわるあらゆる問題へのアドバイスを与えることを目的としている。

(3) ALA活動のための5カ年サイクルの採用

情報社会におけるALAの地位を確立し,新しいゴールの組織的な発展を可能とするために5カ年サイクルの計画を提案している。計画は,すべてのALA部門および機能を通して実行調整される。さらに,サイクルを繰り返すことにより,最終的には知的参加のような長期目標を達成することが可能となる。

(4) 資金供給プラン

「ゴール2000」の実現のためには,ALAの経費の増加を必要とする。このため「新しい提案を実行するための財源を,伝統的な会費の値上げと,設立が提案されている基金[アメリカ図書館基金Fund for America's Libraries]による新しい収入源に求める」としている。ALAでは,1994年の秋季大会において,このアメリカ図書館基金に10万ドルを拠出することを決めている。また会費の値上げは,ワシントン事務所の拡張とOITの設立に向けられるとしている。もちろん既存の財源についても,可能な限りの再配分と節約をしなければならない。

3.西暦2000年までの達成目標

以上のような提案を踏まえて,ALAは,西暦2000年までに達成すべき以下のような9つの目標を掲げた。

(1) ALAは,自由で開かれた情報社会において,あらゆる世代の人々の知的参加の支援者として公衆に受け入れられるようになる。

(2) ALAは,さまざまな国レベルの協議の場に正式な委員として加わり,図書館とその利用者に関係する事項の決定に関与する。

(3) ALAは,情報社会において人々の参加を促進するために働いている他の組織やグループを見つけ,協力してゆく。

(4) ALAは,出現しつつある情報環境の中での地位と役割を明確に定義する文書を作成し広く配布する。

(5) ALAは,公衆の知的参加を支援するためにワシントン事務所を拡張する。

(6) ALAは,以上の課題に対処し,21世紀に向けて組織の整備を図るために,5カ年の計画サイクルを実施する。

(7) ALAは,情報社会と関係した様々な社会的,技術的問題についての自覚を創り出すため,図書館員などに対して研修および支援の機会を提供する。

(8) ALAは,部会などの下部組織が各々の担当分野で新たな課題に取り組むことを支援するため,その組織を見直し,調整する。

(9) ALAは,図書館情報学教育を再構築し,新しい情報時代のために専門職が最新の技術を学ぶための研修の機会を提供する。

このようにALAでは情報社会の進展にあわせて,図書館界および自らの存在価値を高める方策(戦略計画)を打ち出した。もちろんこの方策を実現するためには,ALA会員の意識の問題や財政的な問題も含めて多くの課題を抱えている。しかしこうした方策を提起していくという前向きの姿勢を何よりも評価しなければならないだろう。

情報社会の進展と図書館の関係については,程度の差こそあれ,アメリカだけの問題ではなく,日本においても全く同様の問題を抱えていることは確かである。「ALAゴール2000」は,日本においても21世紀における図書館の地位を確保するために日本図書館協会が中心となってビジョンを示していく必要性を教えている。

大阪府立中央図書館:前田 章夫(まえだあきお)

Ref: “ALA Goal 2000” submitted by Elizabeth Martinez, ALA Executive Director. Approved by the ALA Executive Board, 1994. 10
Gaughan, Tom. ALA Goal 2000: planning for the millenium. American Libraries 26 (1) 17-21 1995
Raber, Douglas. ALA Goal 2000 and public libraries: ambiguities and possibilities. Public Libraries 35 (4) 224-231 1996