CA1109 – EXLIB−ヨーロッパにおける視覚障害者への図書館サービス− / 宮代信子

カレントアウェアネス
No.210 1997.02.20


CA1109

EXLIB
−ヨーロッパにおける視覚障害者への図書館サービス−

インターネットの利用が普通のこととして語られ,図書館システムも電子図書館化へと急激に変化しようとする社会において,視覚障害者が情報を晴眼者と共有することはこれまで以上に困難になると予測した上で,視覚障害者の情報へのアクセスを保証することを目的に,1993年1月から1994年11月までの23ヶ月にわたって実施されたのが,EXLIBプロジェクトである。これは,EUの第4次研究開発枠組計画(1994-1998)の一環である図書館プログラムのもとに実施されたプロジェクトのうちの一つであり,ユーザー,出版社や図書館関係者,さらにさまざまな独立機関,政府機関の関係者など,このプロジェクトに興味を持つ各分野の代表によって構成されたワーキンググループ(Expert User Group:EUG)が実施に当たった。

視覚障害者のための専門図書館や他の施設がどんなに努力しても,EUに住む約2,500万人の視覚障害者に対して保証できる情報量は,全出版物の1%に過ぎない。EXLIBは視覚障害者が原則的にヨーロッパの公共図書館や専門図書館にある大量の情報を利用できるようにすることを重点に,視覚障害者のための既存の媒体(点字,大活字,音声合成装置)の状況,既存の規格(欧州共同体ESPRIT計画によって開発中のopen document architecture:ODAやSGML)で作成された電子ドキュメントの利用,デジタル化された目録情報(OPAC)へのアクセスとデジタル化された情報の図書館への提供について調査を行った。これらの調査に基づいて出された結論は,EUGの最終勧告と共に一連の報告書として発表された。さらに,本プロジェクトの成果を踏まえて,TESTLAB(Testing Systems Using Telecommunications for Library Access for the Blind and Visually Handicapped)と呼ばれるパイロットプロジェクトが昨年9月から始まっている。

視覚障害者はデジタル化された情報へのアクセスに,音声合成装置と音声ソフトを組み合わせて利用してきた。しかし,最近のGUI(Graphical User Interface)画面ではウインドウやマウスの2次元入力装置を使うために,視覚障害者はほとんどコンピュータを利用できないことが,今問題になっている。蔵書のコンピュータ化を進めているヨーロッパの図書館が,高度システムの開発に,情報に対する機会均等や情報源の標準化という観点を視野に入れずに進むとしたら,視覚障害者がまったく利用できないビジュアルインターフェイスとかグラフィカルインターフェイスを利用する方向に向かい,視覚障害者のための技術は置き去りにされることが目に見えている。そこで,「図書館界にとって直ちに行動を起こすことがいかに差し迫った問題であるかを現実として認識するために,国際協力の面で方途を探ろうとして」,1997年のIFLAコペンハーゲン大会においてEXLIBの報告が予定されている。

EXLIBの活動内容の主なものを紹介すると,目録へのアクセスでは,クライアント/サーバ・モデルを利用し,データベースがMARC構造になっているのであれば,Z39.50対応のインターフェイスを使うことにより,「視覚障害者はアイコンとグラフィックスを使って検索を行うことになるが,それは難しいことではないと思われる」ということである。ドキュメントヘのアクセスでは,テキスト情報とマルチメディア情報をデジタル的に保存することを提唱している。文書作成開始時から,最終製品へのアクセス及び変換の容易性を意識して作成することが重要であるとして,ODAやSGMLなどのアプリケーションをサポートしようとしている。また,文書のデジタル化とともに著作権の問題が非常に複雑になり,EUGの勧告を実行に移す段階で著作権問題にぶつかっている。著作権法がデジタル化された文書に対して,点字・録音図書と同じ扱いを認めない限り,新しい技術を視覚障害者が十分に利用する道が閉ざされてしまうことを危惧している。

EXLIBの勧告をもとに,アイルランド,オランダ,ポルトガルの3ヶ国では視覚障害者情報サービスの利用度を向上させるための国内プロジェクトが実施されており,EXLIBが望んでいる,プロジェクトの結果を出版社や政府官庁,図書館関係者に参考にしてもらいたいという願いが実現したことになるであろう。

情報へのアクセスを容易にすることで,視覚障害者がEUの一般社会に溶け込み貢献できるようになり,一般社会における意識の向上が図られることをこのプロジェクトのメリットのひとつにあげているが,全く同じことが日本においても言える。プロジェクトで取り上げた事柄一つ一つが意義深いものに思える。視覚障害者の情報へのアクセスを保証することは,社会参加の促進につながることが明白であるからである。

宮代 信子(みやしろのぶこ)

Ref:Martinez Calvo, F. J. The EXLIB Project : expansion of European library systems for the visually disadvantaged. Interlend Doc Supply 23 (2) 17-22, 1995
Barwick, M. Improving information services for the visually handicapped : the EXLIB Project. Int Manage Rep 15-17, 1994.12
URL:http://www2.echo.lu/libraries/en/projects/exlib.html