CA1105 – 21世紀の自動車図書館サービス / 荻原幸子

カレントアウェアネス
No.209 1997.01.20


CA1105

21世紀の自動車図書館サービス

アメリカにおける公共図書館の管理職者や図書館委員会のメンバー,議員たちは,自動車図書館サービス(以下BMサービス)存続の必要性について疑問を抱いている。その理由としては,(1)情報スーパーハイウェイの時代において,資源を投資すべきものが他に多々あること(2)車社会の現在,多くの人々は車での来館が可能なこと(3)車を所有していない人も,整備された公共交通機関によって来館可能なこと,等がある。図書館員の中にも,BMサービスは高価だし,事故や故障など不愉快な経験をしたことがあるという人が少なくない。しかし一方で,BMサービスの経験がある図書館員の多くは,それによって公共図書館におけるサービスの使命や重要性を真に理解することができたという。果たしてBMサービスは公共図書館にとって現在どのようなものであり,将来的にはどうなっていくのだろうか。ドン・セイジャー(Don Sager)は論壇という形で,実務担当者や図書館コンサルタント等4人の論客にこの問題に関する個人的意見の寄稿を依頼した。

ジュディス・ドレッシャー(Judith Drescher)は,交通網の整備された郊外の住民よりもむしろ,都市に古くから住む人々を重視したBMサービスを行っているメンフィス・シェルビイカウンティの事例を紹介した。読み物を運ぶという伝統的なBMサービスに加えて,失業者の職業訓練・求人情報に応じるための特別製自動車「JOBLINC」や就学前児童の指導者のためのサービスを行う「Training Wheels」を運行したり,さらには養護施設や医療施設への一括貸し出しを開始しようとしているという。そして最後には“このような多様な業務展開は,求める全ての人々に図書館のコレクションを提供するという,BMサービスの目的と合致するものである”と結んでいる。

キャロル・ホール(Carol Hole)とラス・トッピング(Russ Topping)は,(1)中央館・分館などと比較してBMサービスの貸出コストは安価であるという調査結果が発表されている(2)燃費,デザイン,重量等の点でBM自体の性能が上がっている(3)分館が設置されても依然としてBMサービスを必要とする人々(例えばスラム街の住民,高齢者,保育園児)が存在する(4)図書館のデータベースへのオンライン接続や,コピー機,携帯電話,FAX,パソコン,CD-ROMなどのBMへの積載が可能である,といった近年のBMをめぐる状況について言及し,BMサービスの将来は明るいとしている。

ウオレン・ニューポート図書館のパトリック・ロジンスキー(Patrick A. Losinski)は,積載できる資料の量的制約から予約本を提供することが多いBMサービスは,自ずと利用者一人一人への親密なサービスを行う特徴を持っているとし,遠隔地から電子的にアクセスできる図書館が計画されている中で,図書館におけるこのような人的サービスは今後ますます人々から尊ばれ必要とされると述べた。さらに,必要に応じてサービス拠点を変更できるBMサービスの融通性や,新規図書館利用者の開拓に大きく貢献していることなども指摘した。

ジョン・フィリップ(John J. Philip)は,まずBMサービスの現状として,最近でもマスコミでよく取り上げられていること,BMに関する会議はいつも盛況であること,BM製作会社のビジネスが依然として成り立っていること,新たにサービスを開始したり改めて再開したりする図書館があること,等を挙げた。さらに,建物としての図書館と比べてサービスの縮小・閉鎖が容易であるというBMサービスの柔軟性や,街中を走るBMの風貌は図書館のPRに大変効果的であることなどを述べ,今後も図書館にとって重要なサービスの一つであるとしている。

わが国においてBMサービスは比較的長い歴史を持っている。日野市立図書館の「移動図書館ひまわり号」運行など,かつては様々な試行や議論があったものの,今日では話題性のあるトピックとして取り上げられることは少なくなった。BMサービスをテーマとして関係者の個人的な自由な意見や事例等が集められた本論の企画はかえって目新しいもののような感さえある。また,いつも訪れる老婦人が姿を見せないので図書館員が心配して自宅を訪れたところ,リビングルームで倒れているのを見つけ命を救った話,BM購入資金確保への助成と引き換えに行政委員会の委員名を車体にペイントし,BMが動く広告塔としての役割を果した話など,ドン・セイジャーはいくつかのBMにまつわるエピソードを紹介しているが,わが国でもBMサービスならではのエピソードは豊富にあることであろう。そのような話も交えながら,BMサービスについて折に触れて語り,その内容を図書館員,利用者,行政が共有することは意義深いことと思われる。さらにその一環として,本論で表されているコピー機,CD-ROM,FAX等ニューメディアの積載や,街を走るBMのPR効果などは,図書館システムの整備や分館設置までの対応という,わが国で一般的なBMサービスの展開の考え方から,より一歩踏み込んだBMサービスの今後を考える視点として,大変興味深いものと言えよう。

専修大学:荻原 幸子(おぎわらさちこ)

Ref: Sager, Don. Parnassus on the Interstate: Bookmobile service in the twenty-first century. Public Libraries 34(5) 271-276, 1995
Monley, B. et al. 電子移動図書館 図書館雑誌 90(8) 573-575, 1996.8