CA1101 – 目録教育:理論主体か実践重視か / 斎藤葉子

カレントアウェアネス
No.208 1996.12.20


CA1101

目録教育:理論主体か実践重視か

世界中の情報を瞬時に,誰でも,時を問わず手に入れることが可能になりつつある現在,標準化された良質の書誌情報を迅速に発信できる,訓練されたカタロガーの役割は大きいはずである。

しかし一方,MARCや書誌ユーティリティの発達により,コピーカタロギングの可能性が高まり,あるいは公共図書館などで図書収集の際に書誌情報もつけてもらうやり方が一般的になることによって,目録作成に実際に携わる図書館員は減少している。さらに,アウトソーシングの相手である民間の書誌情報作成機関でのカタロギングは専門的教育を受けていない多くのパートタイマーに支えられている。そんな状況を見ると,古典的な意味での「カタロガーの養成」という命題は今日ほとんど忘れられつつあるとすら言えるような気がする。

それではいわゆるカタロガーの使命はもう終わったのか,という論点を中心に目録教育について考えてみたい。

マックロードとキャラハンは,全米51の図書館学校の教員71名と,120のARL(研究図書館協会)加盟図書館および,27のARL非加盟学術図書館の現職のカタロガーに対してアンケートを行った。内容は1)目録教育の主な目的 2)目録実習の必要性 3)理論と実践の価値 4)教育者と現職カタロガーとの間に教育内容についてのコミュニケーションがあるかどうかなどであった。調査は1994年春に行われ,回収率は教員が59%(42票),図書館員が57%(82票)であった。

この調査の主眼は,「最近目録作成機関のプロフェッショナル・レベルのカタロガーを希望する候補者の実力が低下している。これは彼らが受けてきた図書館学のコースに目録作成の実践的訓練の場がないからではないか」という採用当局の声,あるいは現職カタロガーの,自分たちが受けた教育において実践的な側面が欠けていたという声を背景に,何等かの実習科目が必要ではないかどうか,関係者の意見を聞くというところにあった。

アンケートを送付する教育者の人選の過程で「目録担当教授」という問い合わせに対して,担当がない,あるいは「資料組織論」「書誌コントロール」がそれにあたるか,といった戸惑いがあり,教育関係ではすでにcatalogingが死語となりつつあるという現実に遭遇している。

調査の結果,目録教育に不可欠な要素のベスト6は教育者,現職者ともに,AACR2,アクセスポイントの選択,主題分析,単行書の書誌記述,目録の形態と機能,MARCと順位は多少異なるが共通している。また,これらの項目の基礎的知識,目録の原理や歴史を把握し,標準化の意味を理解するというような理論的教育がまずしっかりなされるべきだという点でも両グループは一致している。

実践的教育については現職者,教育者ともにその必要性は認めているものの,教育機関では情報技術の急速な進歩とメディアの多様化の時代に教育内容が多岐にわたり,1−2年のコースでは目録実習ないし演習の時間がとれないばかりでなく,教師の側も対応できなくなっている現実が述べられている。全体的に現職カタロガーと教員との間に当初予想されたような大きな意見の違いは見られなかった。むしろ,両者の間のコミュニケーションの不足が様々な不満や疑念を生んでいるように思われる。そこで,両者がコミュニケーションを深め,教員は学生のニーズに関する情報を提供し,現職者は目録の最新情報を提供することによって,よりよい教育の在り方を探るべきであるという点がこのアンケート報告の結論になっている。

日本においては,比較的簡単に資格を得られる司書コースに,資格指向の学生たちが多く集まる現状があるが,図書館員になる数は限られている上,たとえ図書館員となっても実際に目録作成に携わる人は極々少ないと思われる。アメリカのような専門のカタロガーという地位もない。しかしたまたま図書館員になり目録作成に携わることになったとき,カタロギングについての十分な知識や経験がないため途方に暮れる,ということはあり得ることである。このような実態を踏まえれば,学校では一般的,理論的教育を行い,一方現職者たちはそれぞれの業務に必要な実践教育を受けられるようなシステムが求められる。特にカタロギングに焦点を合わせて見れば,かつて「目録屋」といわれた専門的なカタロガーがその理論と経験に基づいて次代のカタロガーを育成してきた良き慣習が失われ,カタロギングをトータルに捉えつつ実際の業務に則した指導ができる人材が育っていないと言えるのではないか。

中森強氏が「高等教育の中で,或いはインハウス・トレーニングの形で,更に一歩進めて,全国組織としてより計画的な年次計画・教育手法と新技術に対応できる設備をもつ現職研修のための研修センターを実現して育成することである」と提案しているように,図書館員養成と現職研修の新しい方向をめざすべき時にきている。

斎藤 葉子(さいとうようこ)

Ref: MacLeod,J. et al. Educators and practitioners reply: an assessment of cataloging education. Libr Resour Tech Serv 39(2) 153-165, 1995
中森強 21世紀に役立つライブラリアンを育成する びぶろす 47(8) 172-178,1996