CA1072 – 見せてもいいのか悪いのか−ビデオの貸出と知的自由− / 飯倉忍

カレントアウェアネス
No.202 1996.06.20


CA1072

見せてもいいのか悪いのか−ビデオの貸出と知的自由−

米国の図書館では1980年代以降CDや映画フィルムやビデオカセットなどのニューメディア資料が貸出しのかなりを占めるようになってきた。これら新しいメディア資料の利用が増えるにつれて再び図書館の知的自由の問題がクローズアップされてきている。

南コネチカット州立大学で図書館情報学を専攻しているDeborah L. Vromanは特にビデオの資料の利用の問題を論じている。彼女は問題を大きく2つの観点からとらえている。

一つはビデオ資料の利用に対する料金徴収についてである。今でもなおビデオの貸出しの際に料金を徴収する図書館がある。このような新しいメディア資料が登場する度に,その貸出しなどのサービスに対して料金を徴収することの是非が図書館界でもよく議論されるが,現在の一般的な見解は,図書館の民主的,博愛的な性格から言って,本などの印刷メディアと同様,無料を原則とするべきであるというものである。

しかし,この料金の問題はさらに別の問題にからんでゆくことになる。

映画フィルムやビデオには全米映画協会(MPAA)が定める年齢制限指定(film rating)がつけられている。現在では一般向きのGから17歳未満入場禁止のNC-17まで5段階に分けられている。この指定は,特に暴力的なあるいは猥褻な部分が含まれていたり,麻薬を扱うようなシーンがあるような場合にその内容に応じた指定を受けることになる。

この指定は必ずしも常に客観的という訳にはいかない。もともとこの指定は映画の内容について見る人に注意を与えるために付けられたものであり,図書館が貸出しの際の指針となることを想定しているものではない。しかしながら,図書館ではこの指針がビデオの貸出しに対して,年齢制限を行うときの判断材料になっていることが多い。このような年齢による利用の制限は,情報アクセスの権利の侵害と見なすことができ,貸出しの際の年齢制限の是非という二つ目の問題を生み出している。

ビデオというものが登場した当初,これらはあまりに通俗的で,高価でもあり,短命に終わるだろうとして,図書館界ではそれほど重要視はしていなかった。実際,これらの資料の収集,整理,利用等については,本などの印刷メディアとは異なる半端な扱いを受けてきた。

また,MPAAの指定と未成年者の利用との関係について,連邦最高裁が個々の州ごとに判断することという判決を下したことから,図書館もそれぞれの州が定める法律に従う必要が生じてきた。そのため例えば,イリノイ州が1986年に施行した法律では,ビデオ映画を販売したり,貸したりするものは,それにMPAAの指示があるならば,その指示を表示しなくてはならなくなった。

このことは,料金を徴収している図書館にも適用される可能性があり,外的な要因で話が複雑になるのを嫌った図書館の中には,敢えてこういった問題を避けようと,利用に際しては親の利用カードでのみ貸し出すという方針をとるところもある。

ところで,Vromanは,具体的にビデオの貸出に関するトラブルについて,いくつかの事例を示している。それらはすべて子供が借りてきたビデオの中身が子供にふさわしくないものであり,これらを子供には貸し出さないようにすべきだという親からの苦情である。これに対して図書館サイドは,子供が何を借りるかは親こそが責任を持つべきであり,図書館が貸す貸さないの判断をするべきではないとしている。ただ,ここで筆者が示したものはいわば成功例である。現実には反対に利用者,特に親の言い分が通ってしまうことも多いようである。

Vromanは最後にビデオに対する要求はこれからも増えることはあっても減ることはないだろうとして,図書館協会の指導のもと,改めて結束して知的自由を抑圧しようとする勢力に打ち勝つことが必要である,と結んでいる。しかしながら,実際問題として図書館界がいくら努力してもそれだけでは限界がある。図書館協会は図書館界に対してだけではなく,社会全体に対して知的自由とはどうあるべきなのかということを訴えかけていく必要があるのではないだろうか。

飯倉 忍(いいくらしのぶ)

Ref: Vroman, Debora L. To see or not to see: A study of video collection censorship in American public libraries. RQ 35(1) 37-42, 1995
アメリカ図書館協会知的自由部編 図書館の原則(図書館の自由 第12集)日本図書館協会 1991 p. 61-71
Scholtz, James C. Video Policies and Procedures for Libraries. ABC-Clio, 1991. p.215-241