CA1063 – アジア・オセアニア地域の図書館における情報資源の共有 / 岡村志嘉子

カレントアウェアネス
No.201 1996.05.20


CA1063

アジア・オセアニア地域の図書館における情報資源の共有

アジア・オセアニア地域には,先進国から発展途上国までさまざまな発展段階にある国々が混在している。そこには,おのずから情報の“富める国”と“貧しい国”の格差があり,それをいかに解消するかが大きな課題となっている。

マレーシアは近年急速な経済成長を遂げて,新興工業国の1つに数えられるようになった。この地域における情報資源の共有を推進するために,マレーシアはマレーシア国立図書館を中心として,全国的なネットワーク構築に積極的に取り組んでいる。図書館や情報サービスの振興を重視する政策がそれを支えている。1972年に制定された国立図書館法と1987年の同修正法がその基礎にある。

1976年,ユネスコの援助の下に,国立図書館と6大学の図書館の間でマレーシア研究図書館ネットワークが構築され,MALMARC(Malaysian MARC)とPERPUNET(逐次刊行物データベース)という2つのプロジェクトが始まった。両者とも1990年に中止されたが,コンピュータ導入の端緒となった意義は大きい。

現在,マレーシアの主な図書館ではさまざまな形でコンピュータシステムが導入されている。日本の学術情報センターのような独自のネットワークを持つシステムは存在しないが,インターネットへのアクセスと全国規模の情報ネットワーク構築を目指したJARING(Joint Advanced Research Integrated Networking)プロジェクトが,国家事業として進められている。

アジア・オセアニア地域の発展途上国において情報資源の共有を推進するためには,このような国単位のネットワーク形成が必要であるが,それにはまずその手段となる社会基盤がどの程度整備されているのかを知ることが必要である。最近日本政府と図書館情報大学がユネスコと協力して行っている研究は,この点で大きな意味を持つ。調査を通じて,通信,情報技術,人材などでの共有を可能にする具体的な条件が明らかになった。発展途上国の多くが外国や国際機関の援助を得て,これらの条件の整備を進めている。しかし,この援助が必ずしも所期の成果をもたらしていないことを,当事者は十分反省しなければならない。

情報資源共有のため基本的な条件が整うとネットワーク構築が始まる。少なくともASEAN諸国の間では,それは既に試みられた。1977年,ASEAN5か国がIDRC(International Development Research Centre)の協力の下に,NLDC-SEA(National Libraries and Documentation Centres-Southeast Asia)を設立した。マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイの各国立図書館とインドネシアの国立科学文献センターという5機関で構成される政府レベルのネットワークであったが,IDRCの資金援助期間の終了と共に3年後機能を停止した。その後,復活への努力が実を結ばないのは,単に資金の問題ではなく,もっと根深い理由によるものと思われる。

ドキュメントデリバリーや各レベルの情報ネットワークの機能は,1980年代以降急速に充実してきている。発展途上国においては,情報資源の共有という場合に,国立図書館だけでなく大学図書館の果たす役割も非常に大きい。また,政府の適切な関与と指導も不可欠である。アジア・オセアニア地域は,情報資源の共有という面で新たな段階への移行期にさしかかっている。

岡村 志嘉子(おかむらしがこ)

Ref: Wijasuriya, D. E.K. Information resource sharing in Asia and Oceania. Inf Dev 11(3) 152-160, 1995