CA1043 – 2つのプロジェクト開始:調査研究プロジェクト活動報告(10) / 原田圭子,岩城成幸

CA1043

2つのプロジェクト開始−調査研究プロジェクト活動報告 10)−

国立国会図書館(NDL)の図書館研究所では,平成4年度から図書館情報学調査研究プロジェクトを組織してきた。平成7年9月新たに以下の2つのプロジェクトを発足させた。

なお,平成4年度から活動を行っていた「不特定多数を対象とした図書館における利用者ガイダンスのあり方」は,9月末日付で終了した。

(1) 電子情報の保存とアクセスの制度に関する調査研究−「電子納本制度論」−

増加する一方の電子出版物に図書館はどう対応すべきか。納本図書館としての国立図書館には,特に法制度の観点からの対応が求められている。電子出版物の形を取る電子情報はその量的な増加,社会への影響度の大きさと相まって,法定納本の最も重要な対象と考えられるからである。現在,各国で法制度の見直しが進み,既に法律改正がなされた国も少なくない(CA1007参照)。本プロジェクトはこれらの国の法定納本制度について,文献資料に基づく実証的な調査を行い,わが国の法定納本制度の検討のため,基礎的なデータの収集と分析を意図するものである。

納本制度は国により,納本法,著作権法あるいは図書館法など,異なる法律により規定されており,それぞれに歴史的な背景を持っている。この納本制度の歴史的背景,さらには文化史的側面を概観し,情報の保存とアクセスを保障する国立図書館の機能がどのように形成されてきたのかという点についても調査する。

以上のような調査を踏まえ,電子情報の保存とアクセスに関して,法定納本制度と国立図書館が担うべき役割と果たすべき機能は何かについて,論点を整理し考察を試みることとしたい。

(2) 「社会資本」としての図書館−電子情報環境下における図書館サービス−

インターネット等の出現に伴い,図書館を取り巻く環境は大きく変化しつつあるし,図書館の存在意義も問い直されようとしている。有力な「代替サービス」が出現しつつある新しい環境の下で,図書館サービスの範囲・水準(課金問題も含む)はどうあるべきなのか,そのための一つの手掛りを探ろうとするのが,本プロジェクトの主たる狙いである。

こうした目的のもとに,まず,1)図書館サービスを,「公共経済学」の視点(非競合性,非排除性など)から分析する。つまり図書館サービスは,いかなる「財」と位置づけるのが適切であるのかを考える。「公共財」なのか,「準公共財」なのか,それとも「価値財」なのか。この分析を厳密に行うことにより,図書館が提供する(ないし提供すべき)各種サービスの範囲・水準,さらには,費用と料金の問題についても,経済学的に見た場合(政策的判断については差し当たり考慮しない)の一定の方向性が示されるのではないか。

ついで,2)従来の図書館サービスをかなり「代替」しそうなサービスが出現しつつある現状を踏まえた場合,図書館が提供している各種サービスのあり方は変化して行くのか,しないのか,さらに,電子情報環境下で,民間情報産業と図書館とはいかなる関係となりうるのか,等々を具体的サービスに即して考察する。

上記1)と2)のアプローチをすすめることにより,図書館サービスの有料・無料の範囲等にもおのずと回答が与えられるのではないだろうか。

原田圭子(はらだけいこ),岩城成幸(いわきしげゆき)