CA1016 – 「夜ふかし君」:メリーランド州の夜間レファレンスサービス / 小林直子

カレントアウェアネス
No.191 1995.07.20


CA1016

「夜ふかし君」−メリーランド州の夜間レファレンスサービス−

ボルチモア市のイノック・プラット公共図書館(以下プラット)中央館は,また,メリーランド州の図書館全体の中央館としても機能しており,総合目録の維持や協力レファレンスなど,様々なバックアップサービスを実施している。そのような事業の一環として,図書館サービス・建設法(LSCA)の補助金を得て,同館では1991年度から夜間の電話レファレンスサービス“Night Owl”(夜ふかし君)を始めた。夜間サービスは米国内にいくつかの成功例があるが,それらの研究と州内他業種(ガソリンスタンド,レンタルビデオ店など)の夜間サービスの実態調査から,Night Owl誕生が決まった。

サービス時間は月・火・水曜日は夜9時から11時45分,木・金曜日は夕方5時から11時45分とし,二人のパートタイム司書を回答にあてることにした。目標は一晩に25〜30件,回答率70%としていたが,初年度末には一晩に43件,回答率80%に達した。補助金交付の際の条件は処理数と回答率を報告することだけであったが,州全体を対象にした夜間サービスの有効性を裏づけるために,プラットでは詳しい記録をとり,利用者の居住地域,質問内容と回答の程度,利用時間帯などの把握につとめている。

利用者は州内の全自治体にわたっているが,とくに多いのがボルチモアカウンティとボルチモア市である。1年目は木・金曜日の9時前の利用が6割近く,11時台は4%だけだったが,利用者が夜間サービスに慣れてきた2年目は9時以降の利用が6割以上,11時台も9%となった。

夜間だから妙な質問ばかり来るのではないかとの懸念もあったが,そんなことはなく,質問内容は昼間と変わらない。質問全体の96%はいわゆる即答質問(クイック・レファレンス)である。ただし,夜間は利用者が他機関に問合せることが難しいので,かなり時間をかけても答えるようにしており,平均処理時間は通常の即答質問の処理時間(3〜5分)をやや超えて,7分となっている。一番多いのは本の所蔵(所在)調査で全体の約12%を占める。その場合プラットの所蔵未所蔵を答えるのではなく,州内142館の蔵書がわかるCD-ROM版総合目録で調べて,利用者の身近な図書館を案内するようにしている。Night Owlでは安全のため電話レファレンス室以外の場所に出入りできないので,他の専門室の資料が必要な質問には答えられない。しかし,長期に亘って整備されてきた1,500冊にのぼる充実した電話レファレンス用参考図書と各種の電子メディアツールにより,前述のように回答率80%を達成している。

ところでNight Owlの悩みの種は宣伝費不足と職員不足である。通話料金を利用者でなくプラットの負担にしているため,電話代がかさんで宣伝費を圧迫しており,案内パンフの配布等安上がりな宣伝しかできない。また深夜パートで働きたい人などほとんどいないので職員の入れ替わりが激しく,常に数が足りないか足りても熟練した人がいないという状態が続いている。

いくつかの利用者調査によれば,Night Owl利用の動機は「便利」と「必要」である。仕事や家事の都合で地元の図書館を開館時間中に利用できない住民が代わりにNight Owlを利用するという,一種の地元図書館の拡大サービスとしてNight Owlが利用されているわけだ。一方,伝統的な図書館サービスも充分にできていないのにこうした拡大サービスを行うのはどうかと疑問視する人々もいる。

しかし24時間働き遊ぶ人々を支える様々な仕事が存在する今,情報へのニーズが24時間存在する今,図書館も伝統的サービスを見直すべきではないか。4年目に入ってNight Owlの利用件数は月1,250件に達している。この現状はまさに新しいタイプの図書館サービスへの要求の証しなのである。

小林直子(こばやしなおこ)

Ref: Duck, Deborah C. Night Owl: Maryland's after-hours reference service. Public Libr 33 (3) 145-148, 1994