CA1003 – NAILDDプロジェクト:ILLの再構築に向けて / 竹内秀樹

カレントアウェアネス
No.189 1995.05.20


CA1003

NAILDDプロジェクト−ILLの再構築に向けて−

米国研究図書館協会(ARL)情報資源アクセス委員会のもと,ILL(相互貸借)・文献提供サービスの再構築に向けて,NAILDDプロジェクト (North American Interlibrary Loan and Document Delivery Project)が進行している。ARL加盟館,文献提供業者,ベンダーなどが参加し,1993年に開始された。

近年,資源共有の考え方が着実に浸透しつつあるが,その一方で,ILLには申し込み可能な文献数の限定など様々な制約があり,決して利用者にとって使いやすいサービスとは言えないという現状が,プロジェクトの背景にある。ILLを利用者本位のサービスへと再編成し,利用者に文献への迅速,簡便,効率的なアクセスを保障することがプロジェクトの目的である。ただし,ARLによる新たなILLシステムの開発は予定されていない。既存のILLの問題点を明らかにし,理想的なシステム構築に向けて,ベンダーに対して,システム改善・開発を促していくというアプローチがとられている。

プロジェクトでは,ILLはISRD(Information Search, Retrieval, and Delivery:情報探索・検索・提供)というプロセスとして定式化されている。まず利用者は書誌DBから求める文献を特定し,次に所蔵レコードから所蔵を確認し,そして所蔵館の貸出DBからその文献が利用可能であるか否かを調べる。その上でその書誌レコードを用いて文献をリクエストし,郵送・FAX・電子的手段などにより入手し,料金を決済する。このISRDの一連のプロセスを,電子的に結合し,ユーザーフレンドリーで迅速,簡便,効率的なものにしていくことが,ILLサービス再編成の中心課題である。

そのために必要な技術開発では,次の3点が優先分野とされいる。

第1は,各種DBやシステム間を接続する標準プロトコルの開発・応用である。書誌レコードと所蔵レコード,貸出レコードを接続する上で重要なのは,NISO規格Z39.50(CA931参照)を適用することである。これにより,他館の書誌DB,所蔵DB,貸出DBを自館と同じ方法・コマンドで検索でき,自館と他館とのシステム上の相違が問題とならなくなる。また現在,様々なILLシステムや商業文献提供サービスを利用できるが,それらを相互に結合し,リクエストをシステム間でやりとりできるようにすることが,ILLの効率化にとり不可欠である。ここでは,ILLでやりとりするデータ項目を定めたZ39.63が重要である。その他,ILLシステムに関するISO規格ISO10160,ISO10161も有用であるが、こうした既存の規格のみではISRDの全プロセスをカバーできないため,新たな規格をプロジェクト内のワーキンググループで検討している。

優先分野の第2は,ISRDの全プロセスを管理できる包括的なシステムの開発であり,そして第3は,機関ごとに様式の異なる請求書を文献の送付ごとに発行するという非効率な作業を解消する会計システムの開発である。

ISRDは,ILLに限らず,自館所蔵資料も含めて,文献,情報へのアクセスの過程として一般化することができる。自館資料の提供とILLとを結合し,利用者ワークステーションから館内外の文献に同一のアプローチでアクセスすることを可能とした電子的文献提供システムAriadne(CA943参照)がオランダのTilburg大学で稼働している。そうしたシステムでは,ILLには,文献提供業者や商業DBを含む館外の多様な情報源へのアクセスのためのゲートウェイ機能を果たすことが求められており,これまでの「図書館間の互助互恵的サービス」「付随的,付加的サービス」といった見方は払拭されている。NAILDDプロジェクトもこうした文献提供サービスの新たな流れの中に位置付けることができる。

竹内秀樹(たけうちひでき)

Ref: Jackson, Mary. The North American Interlibrary Loan and Document Delivery Project: improving ILL for all types of libraries. Publ Libr J 33 (5) 273, 1994
Jackson, Mary. Library to library: the NAILDD Project. Wilson Libr Bull 68 (3) 66-68, 1993
補:なお,プロジェクトの最新情報はインターネット上で公開されており,ARLゴーファー(arl.cni.org)の”Access to Research Resources”というメニューで提供されている。